お母様からの日記帳
見切り発車で書き出した「悪役令嬢はヒロインに育成される」の改良版。
拙いですがよろしければお付き合いくださいませ!
「いいことルディー、好きな人ができたら必ずお母様に教えてね?」
物心つく頃から、繰り返し言われた言葉。
ただ、娘の恋を楽しみにしているというには表情が悲しすぎた。
「はいお母様」
「学校に行ったら、きっと貴女は熱烈な恋をするわ。それは素敵なことよ、でもね」
「分かっています。…恋敵に嫉妬しないように、その恋は諦めるように。ですよね」
物心つく頃から、繰り返し言われた言葉。
恋をしろと言われているのかするなと言われているのか分からない。
「そうよルディー。残念ながら貴女が思いを寄せる人には、既に決まった人がいるの」
ここまで断言しておきながら、私が恋をすると予想されてる方の名前は一度もでたことがない。
何でも、私が初恋を実らせてしまうと家が没落するらしい。よく分からないけれど、そういう呪いにかけられているらしい。
悲しい恋を予想されているのなら、いっそ恋なんてしたくないと私は思っているが どうやらそうも行かないようで、恋をしなくてもそれはそれで没落するらしい。酷い呪いだ。
「そんな顔をしないでルディー、大丈夫。好きになったら、相手の嫌なとこを探せばいいのよ!そしてもっと素敵な人を探すの、ね、簡単でしょう?」
「王子様を見限って、騎士と駆け落ちする物語のように?」
「あら この前買って来た本ね、もう読んだの?そうよ、顔がよくても頼りにならなくて嫌だとか、賢いけれど気弱だとか、なにかしら欠点はあるものよ。頑張って探して、嫌いになりなさい」
まだ恋をしたことがない私にとって、ここで頷くことは簡単だった。
好きになったら、それ以上その人と関わらずに過ごせばいいと思っていた。
「じゃあ、はいこれ。入学式までに読んでおいてね」
手渡されたのは、日記帳。14歳になった私は今年から全寮制のディンクス学園へ通うことになっている。
日記をつけなさいと言っているのかと思ったが、ぱらぱら開くと既に書き込みがされているページがある。
「これは?」
「そこに、貴女に起こるイベントが書いてあるわ」
入学式、課外授業、街へお出かけ、春のお茶会…どうやら学園のイベントが書き込まれているらしい。
「ここに、"リリーチェ・ロウェル男爵令嬢に挨拶"とありますが、どなたですの?伯爵家の娘である私がわざわざ探すだなんて…お父様のお仕事関係の方?」
「その子は貴女の恋敵よ。できれば仲良くしてちょうだい」
「なんですって?」
誰に恋をするかは決まっていないが、恋敵は既に決まっているらしい。どんな呪いだ。
「絶対にいじめては駄目よ」
「そんな低俗なこと致しません」
「あぁ、本当はもっとがっつり貴女の力になりたいのに…!全部のルートを詳細に覚えていない不甲斐ないお母様でごめんなさい…!」
どうやってフラグを潰せばいいのか全然思いつかなかったの、と悔しそうに顔を覆うお母様は、こうやって時々難解な言葉を使われる。よその国から嫁いできているので、その国の言葉なのだろう。
「ご安心なさって、お母様!私の初恋は実らせませんわ!」
何年も前から呪いの心配をしていたお母様を安心させるよう、私は力強く宣言した。
お母様はこの世界が乙女ゲーの世界だと知ってる異世界転生者。
親友の子供の名前を変えようとしたり自分の子の名前を変えようとしたりで頑張ったりはしてみた。
回避は無理だった様子。