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Blood harena  作者: ペイニー レイン
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記憶 -1-

記憶

-1-


山道は険しいが、それでも登れない山ではなかった。岩のでっぱりや、木の根っ子などを足がかりに少しずつ登っていた。山の麓のほうは木々は枯れていたが、少し上のほうになると、まだ枯れた葉がついている木があった。枯葉を踏むとかさこそと音がした。

2日目にやっと三分の二あたりまで登ってきた。

このころになると山は少しずつその険しさを増してきた。

夕方になって、足元が悪くなるまでぎりぎりまで登った。

「もうこれ以上は今日は無理だな」

「そうだな」

座り心地のよさそうな場所を探して4人は腰かけた。木々の隙間から差し込む月明かりを頼りに、簡単な食事をとった。

「今日は座ったままで眠らないといけないわね。」

「ああ。エヴァは大丈夫かい?」

「うん。私は大丈夫。」

そういうと小さくため息をつく。

「ほんとに?」

エヴァの表情は月明かりの影になってよく見えなかった。トーイがそっとエヴァの肩に触れたが、エヴァはかすかにうなずいただけだった。月明かりに照らされ枯れた葉が活き活きと輝いて見えた。赤茶けた葉、枯れ草の音、それすら素晴らしいのものに見える。

「ここはまだ、生きてるのね」

「そうだな」

風の音を聞きながらスパンたちはほとんど一睡もできなかった。

明け方になって、冷え込みが強くなると4人は擦り寄って暖めあった。太陽の最初の光が東の空を明るくしたとき、スパンはホッとするものを感じた。月明かりがあるとはいえ、やはり夜の闇にはなにか得たいの知れないものを感じる。赤い砂が闇夜に隠れて忍び寄ってくる。そんな妄想にもとらわれる。


ふ、とスパンは体にむずむずしたものを感じ、あわてて毛布を引き剥がした。この感覚。懐かしい感じがするが、すぐには何が起きているかは思い当たらなかった。

そっとズボンの裾をめくっていくと、それはいた。

スパンの行動にトーイたちは目を丸くしていたが、スパンが指先に乗せてみんなに見せたものは、小さな毛虫だった。虫はにおいを嗅ぐようなヒクヒクとした仕草をみせる。スパンの指の上で右往左往している。

みんな息を殺すようにしてその仕草を見守っていた。

体一杯に命を感じる。生きている命。

トーイが他にもいるかもしれないと、そっと葉の裏側や、石の隙間などを捜してみたけど、他には見当たらなかった。

「虫のお父さんとお母さんからみたら…ううん、虫という種族から見たらこの子が最後の奇跡なのかもしれない。」

エヴァがささやくようにかすれた声で言った。

スパンはそっと虫を木の幹に乗せた。

「つぶさないように気をつけてね」

そっと4人は場所を移動した。何かの弾みに虫を殺してしまってはいけない。

「虫か…なあ、トーイ。虫がいるってことは、まだ望みはあるのかな…」

「ああ。あるさ。」トーイは迷わず答える。

「エヴァが妊娠していることもそうだ。まだ、希望はある…俺はそう信じてる。」

スパンはトーイの顔をまじまじと見つめる。確固たる信念。ゆるぎない自信。そういうものをトーイから感じる。なぜ、トーイはこんなにも、ゆるぎない自信をもって生きていけるんだろう。

「なあ、トーイ。ずっと考えていたんだ。今も考えているんだけど。」

「…」

「僕たちは何かの力に惹かれるようにここに来た…そんな気がするんだ。」

「何かの力?」

「うん。僕は、君も知っているとおりそんなふうに物事を考えるたちではないし、でも、なにか意味があるような気がして。」

「意味…っか」

「ああ、ずっと考えてる。」

スパンははるかかなたの平原へと視線を移す。東から上った太陽は真っ赤な平原に朝の光を投げかけている。

見渡す限り真っ赤な大地。

もう何もない。彼方に望めるはずの海も、広がる草原や森も、そしてスパンたちが暮らしていたサマーズの町も。いまはすべて真っ赤な砂に埋もれている。

1000年前はどんな風景だったのだろう。スパンは遠い過去に思いを馳せる。

山に吹く風が心地いい。

しばらくスパンとトーイはその景色をながめていた。

「大統領の声明発表。覚えてる?」ぼくはトーイに問いかける。

『調査グループの発表は、中央統合研究所の地下実験室で実験中に爆発がおこったのが原因の可能性という報告がありました。爆発の原因は現在調査中です。その影響で地軸が多少ずれてしまったのではとの見解です。そのため、磁気嵐のような異常現象が引き起こされ、国民の皆さんに大変な不安と不便を与えてしまっています。ですが、いま東の政府と西の政府でこの事態の打開策を検討中です。すぐに今までの暮らしに戻れます。

政府を信じて安心してください。』

「結局、打開策もなにも見つからないまま、みんな赤い砂に飲まれてしまった。砂になったというほうが正解かもしれないね。どう形容していいかわからない。」

トーイはゆっくりと頷いた

「そうだな。結局大統領は嘘をついた…といより、大統領も本当のことは知らなかったのかもな。こんな恐ろしい赤い砂だったなんて。海岸で赤い砂が見つかって、あっという間に海や陸地にひろがって、すべて真っ赤な砂漠になってしまった。結局俺たちは、何が原因なのか、何が本当なのか、どうしてこうなったのか、なんて考える暇もなかった。それを知る方法さえもうないな。」

「東には1万人ほどの人間がいたのに生き残ってるのは、たぶん僕たちだけだ。西は、人口3万ほどだったけ…。今どうなってるのかな。」

小さくため息をつく。トーイが気を取り直すように言った。

「でも命ってすごいよな。もう人類が滅亡だってときにも子供がうまれるんだぜ。俺、命のすごさに、感動してるんだ。理屈なんてどうでもいい。俺は、希望はあるって、信じてるんだ。俺が感じた感動は嘘じゃないって。」

スパンの眉間で何かがはじけるような感じがし、その衝撃にめまいを感じた。


“季節は変わらない。永遠にこのままだ”

遠くで知らない誰かの声がした。


スパンは、そしてゆっくりと、崩れ落ちた…。



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