夢と現実 【月夜譚No.400】
夢の中では、理想の私になれた。
美人として学校の人気者になったり、魔法を使って人助けをしたり、羽根のように軽い身体を駆使してスポーツで活躍したり。
しかし現実の私は、雀斑だらけの不細工な容姿に人見知りも手伝って、年齢を重ねる毎に目立つことを避けるようになった。運動も苦手な方で、体育の授業で同じチームになった同級生に嫌な顔をされることもしばしばだ。
夢の中の自分であれたら良いのにと思ったことも、一度ではない。
「さあ、どうぞ」
満月の夜、コンビニ帰りの私の目の前に現れたのは、黒いマントを纏った男だった。彼は夢を現実にできる薬だと言って、夜を溶かしたような色をした液体が入った小瓶を差し出した。
私はその瓶をじっと見てから、男を見上げる。背後の満月は大きくて、その陰になっているからなのか、何かで覆っているのか、顔は全く見えない。
私はもう一度小瓶に視線を戻してから、そっと首を振った。
夢が本当なら良いのにとは思う。けれど、多分そこには家族や数少ない友人はいない。そう考えたら、現実は現実のまま、自分が頑張れば良いと思った。
男は私の顔を一瞥したかと思うと、ふっと風に流されるように消えてしまった。
私は数度瞬きをして、歩き出す。
きっとこれも夢なのかな、と思いながら。




