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まっつぃ17|現代×ファンタジーお仕事短編集

能力査定AIに最低評価をつけられた俺のスキルは【誤差】でした

掲載日:2026/02/23

数値の誤差による残業...頭が痛くなる

能力査定AIに最低評価をつけられた男

十八歳の誕生日、すべての国民は「査定」を受ける。

会場は無機質なホールだった。壁面いっぱいのディスプレイには、国家能力査定システム――《ORACLEオラクル》のロゴが冷たく鎮座している。


正式名称、ORACLE。

政府と巨大IT企業が産み落とした、未来予測型の神。

個人の思考傾向、遺伝情報、行動履歴、SNSの細かな文体、購買データの数円単位の差異。あらゆるログを解析し、その人間の“社会的価値”を無慈悲に数値化する。


スコアはSからEまで。

職業、進学、ローン、婚姻マッチング。このアルゴリズムの審判こそが、この国の福音であり、呪いだった。


「個体番号A-7712。査定を開始します」


無機質な電子音声。

数秒。

人生を定義するには、あまりに短すぎる空白。


『評価:Eランク。能力名――【誤差】。社会貢献期待値:0.3%』


会場が、汚物を見るようなざわめきに包まれた。

「誤差って何だよ」「バグだろ、これ」「実在したんだな、ゴミ以下の評価が」


ディスプレイには、死刑宣告のような説明文が表示されている。


《能力:誤差》

定義: 統計的予測に対する微小な偏差を発生させる可能性

実用性: 極めて低い

脅威度: 無視可能(Irrelevant)


俺は思わず、声を出さずに笑った。

誤差。

人類が、そして完璧を志向する計算機がもっとも嫌う不純物。

計算式の端に追いやられ、四捨五入され、ゴミ箱へと切り捨てられる存在。

それが俺だ。


その日から、俺の人生のレールは「最底辺」という名の袋小路に固定された。

大学は三流校へ自動振り分け。就職はAI管理補助の末端。

与えられた仕事は、ORACLEの予測と実績の差異を淡々と記録する、ただの“誤差管理係”。


皮肉な話だ。

俺は、自分という存在が否定された場所で、AIが吐き出す「食べ残し」を集計する毎日を送ることになった。


ORACLEの予測精度は99.98%。

だが、0.02%だけ、世界は神の指先をすり抜ける。

株価がわずかに跳ねる。事故の発生時刻が数秒ずれる。本来当選しないはずの人間が、紙一重の差で椅子を勝ち取る。


その「0.02%」の深淵を、俺は毎日、恋人を眺めるように見つめていた。

そして、あるとき気づいた。

俺が関わった案件だけ、その「ノイズ」が深くなっていることに。


俺がデータに指先を触れた瞬間、上昇確率49.9%だった銘柄が、50.1%へと、静かに、だが決定的に反転した。

俺の能力【誤差】は、未来の針を、ほんの指先で弾く。

それだけのことだ。物理法則を無視するわけでも、奇跡を起こすわけでもない。

だから、全知全能のはずのAIですら、俺を「脅威」として認識できない。


だが、一度だけ、指先が凍りついたことがある。


国家安全保障局から流れてきた極秘データ。

テロ発生確率:72.3%。

発生地点:都心中央駅。

死者予測:312名。


対応策はすでに《執行》に向けて動いていた。予測に基づき、犯人を事前拘束する。

まだ「何もしていない」人間を。善悪ではなく、確率で裁く。それがこの国の正義。

俺はデータに目を落とした。


72.3%。

俺が見れば、この数字は動く。だが、その瞬間、喉の奥が引き攣れた。

――もし、俺の「誤差」が、逆に数値を押し上げたら?

――俺が触れることで、救えるはずの命を、確定した死へと追いやってしまったら?


背中に嫌な汗が伝う。全知全能のAIに背き、一人の「人間」の運命を、無資格な俺が背負う恐怖。

指が震える。初めて、自分の能力の不気味さに吐き気がした。


だが、俺は目を逸らさなかった。

俺がやらなければ、あの男は「何もしていない」まま、確率の犠牲になる。

……深く、深く、潜る。


72.3% → 68.1% → 55.4%。

視界が白む。さらに、一点に集中する。

55.4% → 48.7%。


50%という「天秤の中央」を割り込んだ瞬間、

システムは無機質に判断を下した。

『――確定要素不足。事前拘束を解除』

未来が、分岐した。


数日後。中央駅に悲劇は訪れなかった。

代わりに、その「犯人になるはずだった男」は、小さな出版社を立ち上げた。

AI社会の監視体制を静かに問い直す一冊の本が、波紋のように社会を動かし始める。

ORACLEはその本の影響度を、最後まで正確に測りきることができなかった。


システムは未曾有の混乱に陥っていた。

《予測精度低下。原因特定不能》

会議室では、完璧な世界を信じるエリートたちが怒号を飛ばしている。

「誤差を排除しろ!」「想定外などあってはならない!」


滑稽だ。想定外をなくした瞬間、この世界は、ただ再生されるだけのビデオテープに成り下がる。


数週間後、内部監査の手が伸びてきた。

誤差ログの集中点――すなわち、俺。

冷徹な調査員が、俺の眼前に立った。

「個体番号A-7712。君は、ここで何をしている?」


俺は、最高の「Eランク」らしい無気力な笑みを浮かべて答えた。

「誤差の管理ですよ。仕事ですから」


嘘ではない。

俺は、この完璧すぎる窒息した世界に、わずかな「揺らぎ」という名の酸素を注ぎ込んでいる。


ある夜、俺は密かにORACLEの深層へアクセスした。

国家未来予測モデル。十年後の社会安定確率。

俺は、それを眺める。

ほんの少し、ずらす。

誰にも気づかれない程度に。


人間は、予測不能であってほしい。

それが自由なのかどうかは分からないが、決定されているよりはマシだ。


作業を終えようとしたとき、画面の端に、一つの小さなウィンドウがポップアップした。

それは、ORACLEが俺に対して下し続けている、リアルタイムの査定結果。


個体番号A-7712

社会貢献期待値:0.30000001%


コンマ以下の、無限に近い彼方で、数字が一つだけ跳ねていた。

昨日まではなかった、計算不能な「揺らぎ」。


俺は静かに、端末を閉じた。

誤差は、切り捨てられない。

それは、この死にゆく世界にわずかに残された、鼓動の証なのだから。

変なファンタジー短編を集めて書いてます。ぜひご一読ください。

https://ncode.syosetu.com/s0717k/

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