表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四畳半のバグ  作者: マツダ
5/8

第㈤畳

バスターが畳を前足で指す。


「さぁ、あそこに行くんだ。あそこからデバックルームに入れる」


「さっき僕が入ったとこ?」


「いや、あれはまた別の部屋だ。今から行くとこではプログラムを書き換えられる」


僕は理解が追い付かない。

突然"バグ"や"プレイヤー"などと言われて頭がパンクしそうだ。


「少し整理させてくれ」


「あぁ、急に畳みかけて悪かった」


よし、整理するとしよう。

この世界は現実世界ではなく"プレイヤー"が操作しているシュミレーションだ。

あの夢に出てきた人のような物の事だろう。


次にバスターは修正プログラムでバグやウイルスを報告して排除する。

いわゆるパソコンのウイルスバスターのような役割なのだろう。


そして僕はこのシュミレーションの"バグ"。

僕を報告しようとバスターがしたが感情が芽生え、できなかった。

そして僕には時間がない。


なぜ?

そしてなぜ僕は"プレイヤー"に消されるだけじゃ、すまないんだ?


「……一つ、聞いていいか」


畳から目を離さずに言った。


「どうして、僕には時間がないんだ?」


バスターはすぐには答えなかった。

前足を下ろし、しばらく黙っている。その沈黙が、じわじわと僕の心をえぐる。


「"バグ”はね、恒一」


妙に落ち着いた声だった。


「長く存在しすぎると、内部で歪みが発生する」


「歪み?」


「"ウイルス”のようなものだ」


頭の中で、何かが噛み合う音がした。

「それって……僕の中に?」


「正確に言うと、君という存在そのものから発生する」

バスターは淡々と説明を続ける。


「風船のようなものだ。最初は小さい。だが、バグの状態が長く続くほど、膨らむ」


「……僕は、何年前からバグっていたんだ?」


一瞬の間。


「……十八年前からだ」


「それって、平均と比べて長いのか?」


「とても長いよ。今まで割れなかったのが不思議なくらいにはね」


嫌な想像が、脳裏をよぎる。

「……膨らみきったら?」


「割れる」


その一言が、異様に重かった。


「割れた瞬間、その周囲のプログラムはまとめて消去される。君も、君が触れた世界も」


それはつまり――

「…死ぬ、ってことか?」


「"死”という概念が、一番近い」


喉が渇く。

「じゃあ、俺はもう……」


「限界が近い」


はっきりと言われた。逃げ場のない声だった。

「君は“バグ”であった期間が、長すぎる」


だから時間がない。

だから急がせた。

だから――


「待て」


ふと、別の疑問が浮かぶ。

「だったら、なんで俺は“プレイヤー”に見られていた?」


バスターの尻尾が、ぴくりと止まった。

それだけで、これは“重要な質問”なのだと分かる。


「本来、バグは観測されない」

静かな声。

「見られたということは、君はもう“誤差”ではない」


「……じゃあ、何なんだ?」


バスターは前足で畳を、軽く叩いた。

その音が、やけに大きく響く。


「君は今、プレイヤーの視界に引っかかっている」


嫌な予感が、背中を這い上がる。

「それって……」


「修正対象として、だ」


畳の逆向きの一本が、微かに軋んだ。

まるで、こちらを急かしているように。


「だから行く」

バスターが、再び畳を指す。

「ここから先の部屋で、君は“言語”を学ぶ」


「……さっきのか?」


「そうだ。この世界を書いているものだ」


一拍置いて、こう続けた。

「それを知らなければ、君はただ消されるだけだ」


畳の上の空気が、わずかに歪む。

僕は息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。


「……行こう」


もう、後戻りはできない気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ