第Ⅳ畳
バグとは?
突然頭に声が響く。
「聞こえるか?恒一よ」
部屋には僕とバスターしかいない。
誰が喋りかけているかわからない。
また声が響く
「私だ。下を見ろ」
僕は下を見た。
そこにはバスターが座っていた。
僕はありえない事を考えた、バスターが語り掛けていると。
そんなわけないのに。そうとしか思えない。
声が響く
「恒一が考えている通りだ。そうだ私だ」
嘘だろ
犬はテレパシーが使えるはずがない。
少なくとも僕が知っている生き物でテレパシーを使うものはいない。
「バスター、お前なのか?」
そう問うとバスターは
「ワン」
と静かに鳴いた。
最近の僕は疲れているのか?
ありえない事を体験して、ありえない光景を見てきた。
そうだ
仕事をやりすぎたんだ
声がまた響く
「違う。これは現実だ。いや、現実と呼んでいいのかわからない」
「なんでだ?」
「この世界はシュミレーションで君は"バグ"だ。君が見た"それ"は君たちをシュミレーションしている"プレイヤー"だ。そして私たちはバグやウイルスを排除するプログラムだ。」
衝撃だ
開いた口がふさがらない、でもなぜか信じてしまう。
続けて
「君を私は"プレイヤー"に"バグ"として報告しなければならない。だが、なぜか私はそれをしたくない。私自身もバグってしまったのかもしれない。」
「報告しないだって?」
声が喉に引っかかる。
理解ができていないのに、言葉だけが先に出た。
「本来ならすで報告している。」
バスターは畳に伏せたまま、こちらを見上げている。
口は動いていない、でも確かに声は続いている。
「君は今観測誤差を起こしている。行動が最適化されていない。感情が過剰に保持されている。それは"バグ"だ」
頭が重い
夢の続きみたいだ、でも夢にしては具体的すぎる。
「じゃあお前はなんだ」
「私は修正プログラムだ。正式名称は長い。君が読んでいる"バスター"で構わない」
冗談のような話に急に現実味が帯びる。
「"バグ"を見つけ、隔離し、報告し、排除しなければならない。それが私の役割だ」
「....僕も?」
「本来はそうだ」
一瞬。部屋の電気がチリっと音を立てた。
心臓が跳ねる。
「でも、君を知ってしまった」
「知った?」
「君の過去を見た。疲れていたこと。逃げ場がなかったこと。それでも私を抱き上げたこと」
あの日の光景がかすかに浮かぶ
ペットショップ
小さな体
理由のない衝動
「感情は私たちにはいらない不要なデータだ。だが、削除できなかった。」
「それが....情ってやつか?」
頭が静かになる。
バスターは一度だけ、ゆっくりと尻尾を振った。
「私は今、規定外の行動を取っている」
「つまり?」
「君に協力する。報告はしない。その代わりに...」
畳の上に、文字が浮かぶ。
歪んだ線。
一つ一つに意味があるようだ。
【き み は ま だ し ら な い】
「何を?」
【ぷ れ い や ー は ば ぐ を "け す" だ け じ ゃ な い】
背中に冷たいものが走った。
「文字を覚えてくれ。言葉を共有しよう。時間があまりない」
その瞬間、畳がまた軋んだ。
一本だけ、逆向きに。




