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四畳半のバグ  作者: マツダ
2/8

第②畳

夢かもしれない

いつも夢を見ない。

目を閉じて開けば朝だ。


そのはずだった。


気づくと僕は暗い場所に立っていた。

足元はなく、床も天井もない。

ただ遠くに、淡く光る四角い画面が浮かんでいる。


画面の前に何かがいた。


人か?

いや人ではない。


だが脚があり腕もあり頭がある。

だが人間ではない。

輪郭が曖昧で身体の内側が蒼く発光している。

顔はみえない。


あるはずなのに焦点が合わない。


"それ"は黙ったまま画面を見つめていた。


近づこうとするが距離が縮まらない。

歩いてるはずなのに足音がしない。

まるで移動という概念自体ないみたいだ。


僕は目を凝らして覗き込んだ


画面がふと動いた。

会社だった。


見慣れたフロア。

見慣れた机。

見慣れたコップ。


上からだ。


天井よりも高い場所からすべてが見下ろされている。


人が動いてる。


同僚だ。

誰かが立ち。

誰かが座り、誰かが笑っている。

その中に自分がいた。


俯瞰視点。

まるでシュミレーションゲームのようだ。


画面の端には意味の分からない記号が並んでいる。

文字なのだろうか。

赤く減っていくゲージ。

一定の動きをするとゲージが回復する。


発光する"それ"が画面に手を伸ばした。

指先が触れた瞬間、画面の中の僕が少し動きを変えた。


笑うタイミング。

相槌の角度。

言葉を飲み込む速さ。

すべてが微調整される。


"それ"は操作していた。

迷いがなく慣れた手つきで。


僕は叫ぼうとした。

やめろ、それは僕だ、と。声は出なかった。

口を開いても空気は震えない。


発光する"それ"がこちらを見た気がした。

気がしただけだ。

でも認識されたと分かった。


その瞬間目の前が暗転した。


四畳半の部屋。

畳。

壁。

天井。

見下ろしている。

畳が一枚ゆっくりと沈み込んでいる。


僕が触れた場所だ。


そして頭の中に謎の言語が浮かんできた。

読めないが何となく予期しないことだとはわかった。


そこで目が覚めた。


喉が痛い。

汗で体が冷たくなっている。


横でバスターがこちらを見ていた。

吠えない。

ただじっとしていた。


天井はいつも通りの高さだった。

同じ色。

同じ四畳半。


それでもはっきりとわかる。

見られている。


そして僕は気づいてしまった。


僕は"それ"について調べたくなった。

人生で初めて会社を休んだ。

理由を聞かれても困るだけだと思い体調不良とだけ送った。

返信はすぐきた。


「お大事に」の一文。


それ以上でも以下でもない。


布団から出て机に向かいノートパソコンを開く。

調べよう、今すぐに。


夢のこと。

発光する"それ"のこと。

あの画面のこと。


検索欄に打ち込んだのは、昨日動画で聞いた単語だった。


カルダシェフ・スケール


文明の発展度を測る指標のことらしい。

タイプがⅠ、Ⅱ、Ⅲとあるらしい。

数字が上がるほどに扱えるエネルギーが増える。


タイプⅠ。 惑星全体のエネルギーを制御できる文明。 人類は、まだそこにも達していない。


タイプⅡ。 恒星一つを丸ごと使える文明。 理論の中の存在。


タイプⅢ。 銀河全体。 無数の恒星。 無数の惑星。 無数の文明。


読み進める喉に背中が冷えていった。


タイプⅢ文明は計算資源に困らない。

現実と見分けのつかないシュミレーションを無数に走らせることができる。

娯楽として。


僕はあの夢を思い出した。

上から見下ろす視点。記号。ゲージ。迷いのない操作。


間違いない。

あれはタイプⅢの視点だ。


キーボードから手を離し深く息を吐く。

偶然だ。

ただの思考の暴走だ。

そう結論づけようとした。


そのときだった。


気づいたらまたあの動画配信サイトを開いていた。

おすすめの一番上。

赤く怪しく光る「NEW」の表示。


【最新】シミュレーション内の異常行動について】


サムネはまた四畳半。

畳。

再生数は1。

投稿時間は数秒前。


喉が鳴った。


動画を再生する。

暗転。

ノイズ。


そして映ったのは俯瞰視点の会社のフロア。

昨日までと同じ。

同僚が動いている。


そしてその中央に自分がいた。


画面の端に小さく記号が表示される。

読めない。

意味も分からない。

ただ一つだけ理解できた。


「これは俺だ」


動画はそこで止まった。


おすすめ欄が更新される。


次に再生される予定の動画: 「バグの処理方法」


僕は電源を落とした。

ノートパソコンの黒い画面に僕の顔が映る。

瞬きがほんの少し遅れていた。


その時畳が軋んだ

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