なかなおり
思いっきり泣いたら、なんだか気持ちがすっきりした。
父はきいちゃんの足を風呂場で洗いに行き、母は絨毯の汚れを落とし、私もテーブルの上を片付けた。
お手本と、新しい半紙が何枚かと、着ていた服に墨が飛んでいたけれど、だんだん大したことじゃない気がしてきた。
ひと段落したら、両親と私はホットレモンとクッキー、きいちゃんは父の足元で猫のおやつを食べた。
そうしてお腹が落ち着いたところで、もう一度習字に挑戦した。
父に教えてもらいながらゆっくりと筆を動かしてみるうちに、なんと数枚練習しただけで、今までで一番上手に書けた。
きいちゃんの足跡のついた失敗作は、母が『今年初めの共同作品ね』と言い、どこからか持ってきた額に入れてリビングに飾った。
「ほら、ごらんなさいな。なかなか味のある書初めじゃない」
言われてみれば、変な方向に飛んでしまった最後のはねは、きいちゃんの足跡を追いかけているみたいでなかなか面白いように見えた。
「……きいちゃん、さっきはごめんね」
ちょっと離れたところに座り込んでこっちを見ているきいちゃんに、おずおずと謝ってみると。
「……にぃ」
きいちゃんは一声小さく鳴いて、トコトコと私の近くまでやってきて、一旦通り過ぎて、また戻って。
ちょいと。
しっぽの先だけで私のふくらはぎを突っついた。
「きいちゃん?」
「に!」
短く鳴いたらいきなり駆け出して、ジャンプジャンプして猫タワーを駆けのぼり、てっぺんのバスケットにおさまって、ぷいっと背を向けた。
「……やっぱり、怒っているのかな。怖かったよね」
「ちがうわよ。照れくさい……とはちょっと違うわね。とにかくきいちゃんは、どうしたらいいのかわからないのよ。今はそっとしておあげなさい」
母に促され、明日の支度の為にリビングを出て自分の部屋へ戻った。
翌朝。
目が覚めたらお布団の中にきいちゃんが潜り込んでいて。
ぷーぷーと鼻息をたてて熟睡していた。




