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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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82マリアナ沖海戦(飛龍の反撃)

「敵将を褒めるというのもなんだが・・・凄まじい男だな」


熱風が吹き抜けるエンタープライズの艦橋で、レイモンド・スプルーアンス提督は静かに、しかし戦慄と共に呟いた。


本来、ここはアメリカ海軍が待ち伏せという最高のアドバンテージを持って挑んだはずの戦場。だが、目の前の海図に記された戦況は、彼の冷徹な計算を狂わせていた。


「全くです。中型空母2隻と軽空母3隻。こちらは正規空母四隻に基地攻撃隊、作戦機600という圧倒的な戦力差がありながら、あちらは空母を守り抜いた挙句、我らの正規空母サラトガを大破させたのですから・・・」


参謀が苦々しく報告を続ける。蒼龍こそ大破させたものの、二航戦による反撃は、アメリカ軍の精神的な柱であるサラトガを炎上させていた。レディサラ、愛された彼女は全身に炎を纏って戦場から離脱した。


「次の第3次攻撃隊を出撃させたら、全軍引く」


スプルーアンスのその一言に、艦橋人員が全員驚きの声をあげた。


「なんですと!? 提督、敵空母はまだ残っているのですよ!」


「君はハルゼー提督かね。自軍の被害を考えたまえ」


スプルーアンスは、感情を排した瞳で参謀を見据えた。


「第1次攻撃隊の半数以上が未帰還だ。日本軍の防空体制は異常だよ。あの中に飛び込んでいくには、この戦力では不安が残る」


「ですが、敵の作戦機はわずか300程度! 我らの半分ですぞ!」


「・・・事実だから仕方ない。現実に、日本軍の航空機能力も防空システムも、我らの一歩先を行っている。実質的な戦力は五分以下だ」




スプルーアンス淀みなく報告される戦況を受信機で聞きながらこう呟く。


「やれやれ。日本製のトランジスタのおかげで通信状態が良くて助かる。皮肉なものだな」


「ええ。それにエセックス級の5インチ砲に搭載されたVT信管も凄まじい威力です。以前なら手も足も出なかった日本軍機を、今は叩き落とせる。・・・それでもこれだけの被害が出るのですから」


「何事も経験だよ。VT信管もレーダーもそうだ。レーダーがホワイトアウトしたら、それが日本軍の攻撃の合図だと分かれば対処もできる。だが・・・」


スプルーアンスは、水平線の彼方、まだ見ぬ敵将の姿を追うように目を細めた。


「私が真に警戒すべきは、敵将との経験値の差だ」


「確かに・・・。あの山口多聞という男、トラック島奇襲以来、我らの空母を既に4隻も喰っておりますからな」


一人の男・・・そして、その背後の涼宮財閥という巨大な資本が生み出した電子技術の結晶。アメリカ軍はついに、日本軍空母との圧倒的な性能差という現実を理解し始めていた。




「全機今より発進、敵空母を撃滅せんとす!」


山口多聞の、腹の底から響くような号令が飛龍の艦橋に轟いた。運命の第三次攻撃隊、発艦。 祥鳳と瑞鳳に直掩を任せ、軽空母龍驤はわずかな時間で護衛機を組み上げた。飛龍からは24機の九九艦爆、龍驤からは12機の護衛機。これが、今の二航戦が絞り出した全力。


それは偶然にも、日米両軍が同時に鞘から刀を抜き、互いの敵将の首を切り裂かんと放たれた刹那の交錯だった。




山口は攻撃隊を放つや否や、間髪入れずに第四次攻撃隊の準備を発令した。その中核は、母艦を失い飛龍へ着艦した蒼龍攻撃隊。彼らの機体は、米軍のVT信管による猛火を浴び、無惨な弾痕が刻まれていた。再出撃不能と判断された機体は、着艦直後に海へと投棄される。


「必ず仇をとってやる・・・」


独り言ちるのは小林大尉。友軍、そして戦友、友永大尉を失った彼の瞳には、静かな復讐の炎が宿っていた。 彼が駆るのは九九式艦爆。史実の固定脚(足つき)の姿はどこにもない。引き込み脚と、電子制御された1,450馬力の金星四四型発動機を搭載した、爆撃機の皮を被った戦闘爆撃機。


最高速度600キロ。赤外線誘導爆弾の開発により、投弾方式は急降下から、緩降下爆撃へと進化を遂げていた。500キロの五十番を機内に内蔵しながら、零戦と同等の速度で格闘戦すらこなす、怪物。




日米両軍はほぼ同時に敵空母へと肉薄したが、約十分早く準備を整えたのは日本軍だった。油圧重機や小型牽引車によるシステマチックな作業、そして時速400キロ(220ノット)という圧倒的な巡航速度。


これまで、日本軍はECM(電磁妨害)によるレーダーのホワイトアウトで奇襲を成功させてきた。しかし、スプルーアンス提督は冷静にそれを分析していた。ホワイトアウトこそが、日本軍が近づいている証。米軍の新型空母エセックス級二隻と護衛艦には、VT信管を装備した5インチ砲が隙間なく配置され、鉄壁の防空陣を形成していた。


「瑞鳳三番機より。敵戦闘機隊、来襲!」


「了解。返り討ちにしてやるさ」


空母との距離、わずか10キロ。もはやレーダーなど不要、肉眼で互いの機影が見える距離。九九艦爆が投弾地点に達するまで、残された時間はわずか2分。下から突き上げる5インチ砲の絶え間ない咆哮と、空を覆う黒煙の染み。だが、攻撃隊はひるまず進む。彼らはまっすぐに、しかし奇妙な方向に突き進んだ。




「・・・!? 目標は空母ではないのか?」


スプルーアンスが、彼らしくもなく驚愕の声を上げた。攻撃隊は、もっとも危険な中央の空母ではなく、輪形陣の外郭を守る巡洋艦や駆逐艦へ狙いを定めていた。脅威度の低い位置から確実に敵の盾を削り取る・・・戦略的で、極めて合理的な選択。


次々と投下される赤外線誘導爆弾。水柱と共に火花が散るが、それは空母からではない。


「しまった! 彼らは外堀から攻める算段だ!」


防御陣形が崩れ、防空の要である巡洋艦や駆逐艦たちが炎上し、戦線を離脱していく。そして、そのわずか二十分後。盾を失い、丸裸にされた空母エンタープライズの頭上に、小林大尉率いる第四次攻撃隊が死神の如く舞い降りた。




第四次攻撃隊を放った二航戦だが、第五次攻撃隊の発艦準備は、残酷なタイムリミットに阻まれていた。


「早期警戒機より緊急入電! 敵艦載機、約200接近中!」


飛龍、龍驤、瑞鳳、祥鳳。全空母が持てるすべての機体を発艦させた。零戦だけでは数が足りず、もはや九九艦爆、果ては九七艦攻までもが直掩任務に就くという、なりふり構わぬ総力戦。しかし、大破した蒼龍の護衛として戦艦金剛、榛名、さらに第十七駆逐隊四隻を避退させた代償は大きく、利根と筑摩、駆逐艦八隻の対空砲火だけでは、米軍の圧倒的な物量を押し止めることは不可能だった。


ついに、ドーントレスが飛龍頭上に届いた。太陽を背負い、アナポリスの教科書通りに急降下する24機のドーントレス。飛龍は海面に巨大なS字のウェーキを描き、死のダンスを踊るが・・・運命は非情だった。


ドォォォォン!!


4発の爆弾が直撃。甲板は捲れ上がり、爆炎が天を突く。機関そのものは無事だったものの、不運にも被弾はダメコンの要である機関科要員を直撃し、全滅。自力航行を断念した飛龍に、追い打ちをかけるような激しい誘爆が襲った。




山口多聞少将は静かに総員退艦を下令した。残されたのは、駆逐艦巻雲による自沈処分の宣告。


「・・・加来、お前はまだ若い。降りて再起を期せ」


傾斜を深める艦橋で、山口は傍らの加来艦長に語りかけた。


「閣下、何を仰います。艦長が艦と運命を共にするのは当然の務め。私はお供いたしますよ」


「・・・そうか。ならば、一緒に月でも見るか」


「ご一緒します。・・・綺麗な月ですな、閣下」


「あとの事は、若い者に任せようじゃないか」


「そうですな・・・」


二人が最期の安らぎを分かち合い、巻雲の魚雷が放たれようとした、その瞬間。




バタバタバタバタ・・・! 重厚なローター音が空を震わせ、艦橋のすぐ側に、見たこともない異形の航空機――ヘリコプターがその姿を現した。


「山口のおじ様ぁーー!!」


「な、なんだ!? この声は・・・涼宮のお嬢さんか?」


「いや、軍では朝比奈未来みくると呼ぶ約束だったはずだが・・・」


呆気にとられる二人の前に、ヘリから飛び降りてきたのは重装備の海兵隊員たち。


「失礼します、閣下! 山本長官の直命により、身柄を確保させていただきます!」


「待て、離せ! 私は艦と運命を・・・!」


「問答無用ですわ!」


朝比奈未来の冷徹な通信がヘリのスピーカーから響く。海兵隊員たちは流れるような手際で、艦橋の椅子に縛り付けていた二人の紐をナイフで断ち切り、そのまま担ぎ上げてヘリへと放り込んだ。


機体の横には【大和三号機】と記されている。


「ふふっ、捕獲成功ね! 古代君、全速力で離脱しなさい。おじ様たちには、これから負けた分、一生働いてもらうんだから!」


響き渡ったのは、戦場の硝煙を切り裂くには、あまりにも場違いで可憐な少女の絶叫だった。

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