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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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75レイテ沖海戦5(スリガオ海峡海戦)

罠は、完璧な形で完成していた。


周囲を山がちな島々に囲まれているため、夜間は島影がレーダーを乱し、敵艦発見を遅らせる原因となっていた。


西側のレイテ島と、東側のパナオン島・ディナガット島の島影に潜んでいた駆逐艦が遂に姿を現した。


だが、真の絶望はその先にあった。


「前方に感あり! せ、戦艦です! 敵戦艦部隊、こちらへ向かってきます!」


見張り員の悲鳴が艦橋に響く。海峡の最深部、最後の砦として立ち塞がるのは、鋼鉄の城塞。


「T字戦法を決められたら、金剛も榛名も終わりだぞ・・・!」


かつて東郷平八郎がロシアのバルチック艦隊を葬り去った必勝の陣。狭い海峡を縦一列で進むしかない日本軍に対し、出口を横に塞ぐ米軍が全火力を集中させる。歴史は繰り返されようとしていた。


「奴らの狙いは一つ。二十隻以上の駆逐艦による一斉雷撃だ。面制圧で、我らを丸ごと消し去るつもりだな」


西村は低く呟いた。背後の金剛艦隊を救うには、目の前の敵、米駆逐艦隊を一掃するしかない。


「ならば――あれ(・・)を使うほかあるまい」


西村の視線の先には、例のお嬢様から贈られた秘密兵器が鎮座していた。対艦誘導噴進弾ミサイル。時代を数十年飛び越えた、神の雷(トールハンマー)だ。


「ECM(電子妨害)の作動状況は?」


「正常です! 敵艦隊はピクリとも動きません。こちらの位置に、全く気付いていない様子です」


涼宮の技術は、白菊をステルス船に変えていた。だが、攻撃を仕掛ければ位置は露見する。反撃を許さぬ、完璧な一撃が必要だった。


「最初の一撃で、全てを削り取る。・・・いいな、我らに背を向ける道はない。俺の辞書から、撤退の二文字はとうに消え失せている!」


艦橋に集う部下たちが、静かに、けれど力強く頷く。ここにいるのは皆、西村と同じく組織の端に追いやられた雑木林の住人たちだ。けれどその瞳には、自身の責務、金剛艦隊の壁となり、その道をこじ開ける脇役の意地が燃えていた。


「全艦、左砲戦用意!」


戦闘管制官の指がコンソールを踊り、射撃管制装置が瞬時に解を導き出す。


「目標、米駆逐艦旗艦。電子座標固定ロックオン・・・。他艦、データリンク開始。各艦、割り振られた目標を確認!」


「誘導弾、全回路直結! 推進剤点火イグニッションまで、あと10秒!」


西村は深く息を吸い込み、魂を込めて吼えた。


「全艦、衝撃に備えよ! ――死守せよ、鼓膜を保護!」


カウントダウンが艦橋を支配する。6、5、4・・・。


「3、2、1・・・発射ッ!!」


「一番、二番、発射ァッ!!」


白菊の甲板から、凄まじい噴流と共に火の柱が昇った。 涼宮鷹尾が用意したその兵器は、コストと実用性を考慮し、あえて性能を落としたデチューン版。だが、それでも慣性誘導と赤外線、アクティブレーダーを統合したセンサーを持つ、撃ちっ放し能力を持つ。


八隻の駆逐艦から、各二発。計十六発の光線が、暗煙を切り裂いて夜空へと吸い込まれていく。


「一番、二番、命中ッ!! 敵旗艦、轟沈!」


「信じられん・・・命中! 魚雷も届かぬ距離で・・・敵艦が、真っ二つです!」


着弾の瞬間、海原に巨大な紅蓮の花が咲いた。回避運動すら許されず、なす術もなく爆砕していく米駆逐艦たち。


炎に照らし出された西村の顔には、かつて彼を雑木林と嘲笑った者たちが見れば震え上がるような、凄絶な笑みが浮かんでいた。


次々と爆砕し、松明たいまつのように燃え上がる米軍左翼駆逐艦群。しかし、敵戦艦はついに日本軍駆逐艦隊に気が付いた。夜空に無数の照明弾が打ち上げられ、漆黒の帳が剥ぎ取られる。


そこには、わずか八隻で死地に躍り出た白菊ら小型駆逐艦隊と、その後ろで泰然と進撃する戦艦、金剛、榛名の威容が鮮明に浮かび上がっていた。


「敵艦砲射撃、来ます!」


「回避運動開始! じぐざくに振れ! ・・・右砲戦用意!」


西村の鋭い号令が飛ぶ。ミサイル管制にリソースを割いている間は、主砲は沈黙せざるを得ない。今は我慢の時間。至近距離に戦艦の巨砲が着弾し、その衝撃波だけで白菊の艦体は木の葉のように翻弄される。鉄の壁を叩く雨のような破片の音。だが、西村の視線は一点に固定されていた。


「対艦戦闘、用意!」


「データリンク接続・・・捕捉ロックオン! 管制装置起動しました!」


「――撃てッ!!」


満を持して、西村の咆哮が艦橋に響き渡った。


「発射ッ!」


「ミサイル、正常射出! 目標まで5、4、3・・・2、1・・・」


「着弾! 目標撃破、轟沈です!」


「了解、攻撃やめ! 回路を主砲へ移行、全速だ。このまま戦艦の喉元へ突っ込むぞ!」


西村が次の指示を飛ばそうとしたその時、副官が悲鳴にも似た声を上げた。


「西村司令! 旗艦金剛より入電!」


「なんだ、この忙しい時に!」


「前方の重巡から放たれた主砲弾が、金剛の艦橋を直撃! ――艦隊司令部、全滅です!」


「・・・それがどうした!」


西村は吐き捨てた。彼の頭にあるのは、目の前の敵を屠り、道をこじ開けることだけだ。司令部がどうなろうと、関係な――。 そこまで言いかけて、西村は己の置かれた状況に我に返った。


「待て。司令部が全滅だと? ならば今、誰が指揮を執っている?」


「・・・西村司令。今、この海域にいる最先任将校トップは、貴方です」


「何だと・・・?」


「西村司令! 全艦隊の指揮を、貴方がお執りください!」


副官の瞳は、狂おしいほどの戦意でギラギラと輝いていた。敵前逃亡を企てたどこぞの同期とは違う。明確な勝利への意志を持った、この雑木林の駆逐艦隊司令に全てを委ねようとしていた。


西村は一瞬、水平線を見据え――そして、不敵に笑った。


「・・・わかった。全艦へ通達ッ!」


受信機を掴む西村の声が、スリガオの海を震わせる。


『――全艦隊、最大戦速。反転は許可せん。・・・我に続け!』


その瞬間、魂を吹き込まれたかのように金剛と榛名の16インチ主砲が吠えた。かつての第一次世界大戦を彷彿とさせる、完璧な艦隊統制射撃。同時に放たれた十六発の巨弾が、一糸乱れぬ弾道で米戦艦アリゾナへと降り注ぐ。


轟轟たる爆音と共に、アリゾナが炎の城へと変貌した。さらに、減速していた本隊の駆逐艦四隻も、白菊の後に続く。


「旗艦の西村大佐に遅れるな! 主砲、全基、狙いを戦艦へ絞れ!」


もはや海域に、白菊を遮る米駆逐艦の姿はない。かつて蔑まれた雑木林たちは、今、歴史を塗り替える必殺の一撃を放つべく、戦艦という巨城の懐へと躍り込んだ。


「味方の駆逐艦隊を援護する。戦艦に向け、噴進弾ミサイル左砲戦用意!」


米駆逐艦隊を壊滅せしめてなお、白菊の誘導弾は尽きていなかった。残された誘導弾が次々と咆哮を上げ、戦艦の鋼鉄の巨躯へ吸い込まれていく。


「全弾命中! ・・・ですが、ダメです。艦橋と対空砲塔は沈黙させましたが、沈みません!」


「元より撃沈までは望んでおらん」


報告に、西村は不敵な笑みを返した。


「・・・おい、俺たちは何者だ?」


「我らは、誇り高き日本海軍水雷戦隊です!」


「そうだ。ならば――仕上げは魚雷で決めてやれ!」


誘導弾の直撃を受け、米戦艦群は炎に包まれていた。指揮系統は寸断され、レーダーも対空砲も沈黙。装甲のない前後に無数の被弾を受けた戦艦群は、浸水しその速力を落としていた。


「――距離二千! 米戦艦ウェストバージニア級、視認できます!」


見張り員の叫びと同時に、白菊は海面に白い航跡を描いた。お嬢様から授かったECM(電子妨害)とチャフが、米重巡たちのレーダーを完全に殺している。彼らの目には、闇夜の中に躍る亡霊しか映っていない。


「敵重巡、主砲発射! 来ますッ!」


闇夜を切り裂く曳光弾が、白菊の周囲に巨大な水柱を立てる。至近弾の衝撃で艦橋が激しく揺れ、西村の帽子が床に転がった。だが、彼はそれを見向きもせず、瞳に戦艦の巨躯だけを映して吼えた。


「臆するな!  取舵戻せ、一杯ッ! 敵重巡の砲列の隙間を潜り抜けるぞ!」


27.3ノットの限界を超え、主機が断末魔のような悲鳴を上げる。弾雨の糸を縫うように、死神の鎌を嘲笑うように進撃した白菊は、ついにその場へ到達した。戦艦の圧倒的な威圧感が、眼前に迫る。


「・・・九二式酸素魚雷、全弾――射出ッ!!」


白菊以下、十二隻の駆逐艦。彼らは艦隊マニュアルの常識を捨て、距離わずか二千メートルという至近距離まで肉薄していた。放たれた総計六十四線の魚雷が、夜の海に筋を描き、左右の戦艦へと突き刺さる。


――ドォォォォォンッ!!


空気を震わせる連鎖爆発。


「命中・・・命中ですッ!! 敵戦艦、爆沈! 続いて後続のカリフォルニア級にも誘爆を確認!」


見張り員の絶叫が、スリガオの海峡に響き渡る。立ち往生していた本隊、そして西村を嘲笑った重巡最上の艦橋には、ただ信じ難い奇跡を前にした沈黙だけが流れていた。


「・・・見たか」


西村は、背後で炎上し、沈みゆく米戦艦を見つめ、静かに呟いた。


「雑木林でも、一本の矢として磨き抜けば、巨木を貫ける。・・・面舵九十度おもかじはってん! 敵の混乱に乗じて、残存部隊を各個撃破するぞ!」


気がつけば、海峡を塞いでいた米戦艦の全てが海底へ沈んでいた。後に、この金剛艦隊は、歴史にその名を刻むこととなる。それは旗艦の名ではなく、奇跡を先導した男の名を冠した――『西村艦隊』として。

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