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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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4/11

4米の品種改良と陸軍参謀本部での激論

「お父様、少々お話がございます」

私の言葉に、父は手元の書物から顔を上げ、柔らかな眼差しで私を見遣った。

「どうしたのだ? 鷹尾」

「お願いがあるのです」

かねてより温めていた願いを、今こそ父に伝える時が来た。時は西暦1904年。四歳児である私が三極真空管を発明したという事実が、私の言葉が真実に思えるだろうと計算していた。


「おそらく来年、東北地方で大冷害が発生いたします」

父はやや眉をひそめた。

「あの地域が冷害に苦しんでいるのは事実だが、そこまで断定できるとは、いくらお前でも信じられんぞ」

「お父様は、本当に四歳児の私が三極真空管を発明できるとお思いですか?」

父の眼差しに、一瞬の戸惑いがよぎる。

「私はお前を信じておる。まさか、あの発明が他の者の手によるものだとでも言うのか?」

「違います。そこではございません。本当に四歳児の私に可能なのか・・・いえ、私が本当に四歳児だと思われますか?」


父は動揺を隠せない様子で、言葉を詰まらせた。当然であろう。私は今後の歴史改変において、父の力を大いに借りたいと考えていた。ならば、早めに自分の正体を明かし、私が令和の知識を持つことを知ってもらうのが最善策だと判断したのだ。


「お父様・・・私は令和の時代から、この世界線に転生して参りました・・・前世の記憶があるのです」

父は驚き、目を見開いた。

「前世? 一体何を言っておる? お前は間違いなく、私の子だ。どこからか来た他所の子などではない。生まれた時からずっと見守っておった、そんな筈はない」

父の動揺は無理もない。しかし、何とか理解していただかなくてはならない。


「私は令和という三世代後の元号の世界に生きておりました。そして、この明治の世界に記憶を引き継いだまま転生・・・いえ、生まれ変わってしまったのです」

「鷹尾は未来から来たと言うのか?」

「はい。私は未来から来た人間であると同時に、お父様の娘でもあるのです」

父は険しい顔になった。にわかに信じられないのだろう。


「私は三極真空管を発明したわけではございません。最初から三極真空管の製造方法を知っておりました。だからこそ、四歳の私にもそれが可能だったのです。信じられないと思います。だから、どうか私を試してください。来年、東北で大規模な冷害が発生します。中でも岩手県、宮城県、福島県の三県は甚大な被害を被るでしょう。それを少しでも手当てしたいのです。そして、私の未来予想が的中したならば、私の言うことを信じていただけますでしょうか」


父は沈黙の後、深く息を吐いた。

「わかった。具体的にどうすればいいのだ?」

私の話に、父は耳を傾けてくれた。私は三歳の頃から父の書斎の本を読み漁り、先日には発明までしてしまった。単に私が頭がいいというだけでは説明がつかない、そう父は感じていたのだろう。だからこそ、幼い娘の突飛な言葉にも、真剣に耳を傾けてくれたのだ。そうでなければ、ただの幼女の妄想と一笑に付されたに違いない。


「山形県東田川郡大和村の近くの集落に、阿部亀治さんという方がいらっしゃいます。彼は独学で品種改良を行い、冷害に強い米、『亀の尾』を開発しました。彼を支援し、東北にこの品種を広めてください、特に岩手県、宮城県、福島県の三県。それに、亀治さんに資金援助をして、さらなる品種改良を進めてください。今も東北は冷害に苦しんでいます。冷害に耐えた稲を交配すれば、必ず冷害に強い品種ができるはずです」

父は力強く頷いた。

「わかった。至急、誰かを向かわせよう」

良かった。私の歴史改変に必要な、貧しい東北地方の支援が叶う。この地方の貧困は社会問題となり、その不満が後の五・一五事件や二・二六事件などの遠因となる。貧困が社会不安を招き、この種のテロを容認する風潮を生み出してしまったのが、日本の歴史だ。これが原因で、日本政府は国民感情をコントロールできず、戦争や中国進出へと突き進む結果となる。


私はその他、冷害に強い白菜や大根などの栽培方法、そして化学肥料の推奨についても父に伝えた。




その頃、鷹尾の兄、涼宮蒼一郎は参謀本部で激論の最中にいた。


「来る旅順攻略戦をどうするのか? このままでは数万の負傷者や戦死者が出るぞ!」


「しかし、あの地の軍港はロシア海軍の拠点です。制圧できなければ、海軍に対してメンツが立ちませんぞ」


「ですが、あそこは要塞化されています。無謀な突撃を繰り返せば戦死者が増えるばかりです!」


その時、ある若い将校がこう切り出した。


「・・・実は、妹が言うには」


参謀本部での論議は激論となった。曲射砲の意見は敵要塞周囲の塹壕制圧には極めて有力な戦術と考えられたからだ。 迅速な塹壕制圧が可能ならば、急ぎ攻略する必要がある旅順要塞攻略も、強襲では無く、こちらも塹壕を掘り進めながらの正攻法での制圧が可能になる。当然、死者も少ない筈。


要塞周囲の塹壕の無力化の後には28cm砲を敵要塞に使用予定だが、これが十分機能すれば、砲だけで要塞を無力化できる。


参謀本部は直ちに曲射歩兵砲、いわゆる迫撃砲開発を命じた。


時に明治37年、西暦1904年2月、日露戦争は既に勃発していた。

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