25満州旅行とアナスタシア
昨晩は出光佐三さんとの商談で樺太のオハ油田の石油販売の契約を行った。現在は日本石油の潤滑油の特約店として営業していたが、そこに我が社の石油や重油販売の契約を申し出た。彼の経営哲学は尊敬に値するもので、日章旗丸事件などが有名だろう。
そんな彼が現在の契約先である日本石油をおいて涼宮石油と取引する事に難色を示すかと思ったが、意外と簡単に乗ってくれた。最も、彼に満州の遼河油田の事を話したら、独占契約権まで言われてしまい、妥協案としてオリジナルブランドで販売する事を認めた。
後日、アポロ石油と命名される。その他、彼にはアメリカのシェル社と協議してもらい、潤滑油の販売、開発能力を手に入れてもらう様にお願いした。もちろん、涼宮銀行からの融資とセットだ。
と、そこまでは良かったのだが、何分、令和時代の頃の旅行しか知らない私は満州鉄道の数日の旅ですら参ってしまう。出張と言えば新幹線の時代の人間にとって、揺れる上、数日間の特急「あじあ」 の旅はかなり消耗した。
「お嬢ちゃん達。本当にそんな恰好でここまで来たのか?」
「私だって、好き好んでこんな格好していませんわ」
「私もお嬢様に無理やり着せられているだけです」
「ちょっと、何言ってるのか解らないんだが?」
分からんでも宜しい。詳しく聞かれると私があくどく、間抜けな主人な事がバレるだろ?
話している相手は相良宗介。軍属ではないが、傭兵。これから先はお国には知られたくない内容の会談が用意されている。発案は私だが、相手が信用する訳がないから、私はお父様の代行という設定でこの地まで足を運んだ。
私の目的はロシア革命への介入だ。正直、大幅な歴史改変は難しい。既にロシア革命は起き、白軍(帝政を望む陣営)と赤軍(革命軍)に別れて衝突している。
私は白軍を支援し、ロシア内部の混乱を長引かせ、大儲けするつもりである。
誰だ? 守銭奴と言ったヤツは? 一応、ワンチャン、白ロシアが勝ったら、ロシアは共産主義にならないだろう? 中国共産党へのソ連の介入も無くなる可能性が見えて来るからあながち営利目的だけではない。
話を相良宗介に戻そう。
鍛えらえた筋肉は細マッチョで、ちょっと触らせて欲しい欲求にかられる。主人特権で、実際に触らせてもらおう。別に減るものじゃないし、いいよね?
彼の経歴は孤児だ。それもミンダナオ島でビジネスマンだった両親が命を落とし、そのまま現地での孤児の生活を強いられた。ある村で拾われて、その後、この地が紛争地域となってしまった為、ゲリラ活動を行い、その後傭兵として第一次世界大戦に参加した。
お父様の手配した人なので、信頼できる傭兵の筈だ。他に彼の部下が十人程いると聞いている。
「とりあえず、着替えからだ。お前ら、色情狂と思われたくなかったら、さっさと着替えてくれ」
「酷くない? せめて良くお似合いで綺麗ですね。でもこの辺は治安が悪いので申し訳ないけど着替えて下さりませんか? とか、言うべきじゃないですかぁ?」
「お嬢様。色情狂とまで言われてしまったではないですか! 私もお嬢様のおかげで麻痺しておりましたが、よくよく考えますと、確かにこんな格好していたら、色情狂と思われても仕方がございません。相良さん、私をお嬢様と一緒にしないで下さい、私は違います。さあ、お嬢様、早々に着替えましょう」
「えー。でも、相良さん。ちょっと褒めてくれる位いいよね? 一応、私、ご主人様だよね?」
そう言って、ちょっと意識してポーズを作る。だって、相良さん、超イケメンなんだもん。
「可哀想に・・・本物の色情狂か。茜殿も大変だな」
「誰が色情狂よ!それにちょっと位褒めてよー! ケチっ!」
そんなこんなで、予め用意してあったジャージに着替える。何故だろう? この安心感は?
いや、露出が少ないとかそう言うのじゃないよ。何故か落ち着くのだ。多分、前世の私はおしゃれなんて興味なくて、家ではいつもジャージで過ごしていたからだろう。ちなみに学校や会社行く時以外、お外には滅多に行きませんでした(笑)。
「さあ、それではお嬢様方、出発するぞ」
「お願いしまーす」
「お嬢様、華族のご令嬢ともあろう方が庶民のアホの子の様な物言いは慎まれた方が」
「誰がアホの子なのよ!」
こうして、この辺では珍しいトラックに乗ると約束の場所まで向かった、が。
「あれ? 何でこんなとこで停車するの?」
「もう一人、客人を乗せる約束です」
「契約では専属契約の筈では?」
「涼宮家の方ですから、専属契約に違反していない。と、言うより、俺も無理矢理だから少々困ったよ。あの変な医者は」
「医者?」
なんか、嫌な予感がする。
「よう!?」
気さくな声を装って現れたのは一樹兄様だった。
「なんで一樹が来るのよ!」
「なんで俺を置いて行くんだ?」
「お嬢様、一樹様とご一緒でしたら、先程のお姿も褒めて頂く可能性がワンチャンあったのでは?」
「う、うるさい!」
相良さんはイケメンだと聞いていたので、一樹は連れて行きたくなかったんだよー。デレデレしてるとこ、見られたくなかったんだもん。
だが、そんな私達をその相良宗助さんが言葉で遮る。
相良宗助視点
「作戦開始1分前、時計合わせ、10、9、8…」
緊張から、喉の渇きを覚えたが貴重な水には手をつけない。予想外だ。目的地まで日本の華族のお嬢様を護衛するだけの簡単な任務の筈がとんだ番狂わせだ。あのお嬢様、何者だ?
「佐藤、どうだ?」
軍用無線で先行している部下に連絡を取る。
「例の村の周囲は囲まれているぜ。俺達を待ち伏せって訳だ」
「敵はどっちだ?」
「それが赤の方だ」
「赤に好かれるお嬢様って何だ? あいつら、今頃ロシア国内で必死の筈だろ?」
「俺に聞くな。それより、敵兵は二十人位、騎馬もいるが、鉄の装備はない。おそらく拳銃位の装備しかないだろう」
「なら、俺達だけでやれるな?」
「わかった。騎馬は罠に嵌った処を伸介達に殺らせる。俺達は徒歩の十人位が相手だ」
つまり、僅か六名で十人を相手にするって訳だ。
「とにかく高台まで移動…ん? なんだ?」
前進を促したところで敵の姿を発見した。
「各員散開! 隠れろ!」
こんな処で未知の敵に出遭うなどという不幸にうなり声を上げながらも、短く指示を飛ばす。
俺達の哨戒網を抜けて来るなんてどんな敵だ?
「一体何だってんだ」
「かなり小柄?…でも凄い速さで走っています!」
「死ぬが良い!」
前方では口角をつり上げた先程のお嬢様方の一人、茜嬢が日本刀を振り回し、景気よく血をばらまいた。コイツ、確かメイドじゃなかったのか?
「相良! 増援が後ろから来る! 防御戦闘開始!」
俺はトラックを降りると、三式突撃銃の引き金を引いた。そして、いつの間にか隣にいた頭が白と黒のツートンカラーの医者が鋭く叫んだ。
「敵の狙いはどうやら鷹尾の命じゃないようだな!」
「な、なに?」
そうか、警護対象のお嬢様を連れていたから気がつかなかったが、敵の布陣は村を包囲している。つまり、敵の狙いは村だ。だが、この村に何がある? 確かに赤の敵、白がいるのはわかっているが、今の赤は食料徴発とその輸送でこんな処に用は無い筈だ。
「どういうことだ、こりゃあ?」
「知らん。が、味方のようだな」
ツートンカラーが冷静に話すのが苛立たしい。次から次へと想定外の事が起きるが、目の前の敵が倒されて行く。例のメイドのお嬢様は華麗に銃弾を避けている。
「白ロシア軍の様です」
同僚から送られてきた連絡で援軍は白ロシア軍。見てとると、先頭の男達はロシア帝国軍時代の軍服を着ていた。
支援攻撃を受けているので、敵は単調な行動になったので、狙撃するのは非常に容易だった。
「任務完了か?」
「後ろの奴らが本当に味方だったらな」
俺はロシア製の銃を持った男達が近づいて来ると、たどたどしいロシア語で敵性が無い事を伝えようとした。
そんな最中、スタスタと奇妙な緩い姿(ジャージ姿)のお嬢様がのこのこと歩いて来た。
そして彼女はロシア語で何か言った。
「もしかして、アナスタシア大公女様?」
その目線の先には一人の美しい少女がいた。
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