24満州旅行と出光佐三
24満州旅行と出光佐三
「お嬢様、旅行中はメイド服でなくて良いとおっしゃいましたのに、なぜ私はこのような破廉恥な格好をさせられているのでしょうか?」
「よく似合ってるよ、ホットパンツとTシャツ」
「露出が多すぎて、もはや痴女と申しますか、殿方の視線が恐ろしいのですが」
まあ、仕方がないだろう。何しろ茜は、めちゃくちゃ可愛い二十代の女の子で、スタイルも抜群なのだ。手足は長く、お胸も私より豊か。悔しいから、つい意地悪をしたくなってしまう。
茜にはデニムのホットパンツに白いTシャツ(もちろんへそ出し)を着せていた……主人の絶対命令権を行使して、だ。
「すごくおしゃれで可愛いと思うよ。みんな茜の魅力に参ってるんだよ。誇っていいんだよ」
「どう見てもエロい目ではありませんか?」
やはりバレていたか……。私はこんな格好をする勇気がないから、茜で自分の願望を満たしてみたんだけど。
「明日からお嬢様にも同じ服装をしていただきます」
「なんで? なんで私が?」
「それは私のセリフです。ご自身では着られないほど恥ずかしい格好を私にさせたのですか? お嬢様は『令和の世界では当たり前だよー』と仰っていましたよね?」
「ううっ」
茜に一本取られてしまった。しかし、茜の方が身長も高いし、お胸の発達具合も全然違うから、私には着こなせないと思うのだけれど。
私はというと、清楚な夏の白いワンピースに麦わら帽子という出で立ち。それを茜はジト目で睨んでいた。
「でもね。その服装、多分満州じゃ売ってないと思うよ」
「東京でも売っておりません。お嬢様の今の服装も見たことがございません。とても清楚でお嬢様にお似合いかと存じ上げますが、できれば私もそちらの服を着させていただきたかったです」
「でも、今さら――」
「お嬢様のホットパンツとTシャツは、すでにトランクに詰め込んであります」
「え? 茜。お願いだから止めて! 私、そういうキャラじゃないでしょ? お願い!」
「私は痴女系のキャラで、お嬢様は清楚系のキャラだと仰るのですか?」
「そうじゃないけどー」
「明日からお嬢様もホットパンツです」
こうして満州旅行の二日目は、私もホットパンツを穿かされることになった。最近は男の人の視線にも慣れてきたけれど、この格好はちょっと、前世で喪女だった私には未経験というか、恥ずかしい限りだ。
今日は大連のヤマトホテルで一泊して、明日からは満州鉄道の車中の人となる。
満州鉄道の起点は旅順(大連)で、そこから安東(丹東)、奉天(瀋陽)、長春を結ぶ大鉄道網。言わずと知れた、日本の中国大陸最大の権益である。ただし、ハルビンはロシアの勢力下にあり、日本の勢力は奉天まで。もちろん、公式には全て清国王朝、中国の領土。この時代は他国の領土に土足で入り込むようなことが当たり前のように行われていた。中国王朝が末期を迎えていた点が大きいだろう。黒船襲来で明治維新が起こり、近代化が急速に進んだ日本とは対照的だ。私はこれを必然だと思っている。それは歴史の違い。日本は太古から中国という大国と対峙しており、安全保障のため、仏教を中国から取り入れ、律令制を取り入れ、漢字もそうだ。例えば、仏教を導入した頃、隋が興り、律令制が確立した頃、唐が興った。これは偶然とは思えない。大化の改新と唐の誕生は偶然とは思えない。日本は中国に強力な中央集権国家が誕生する度、その脅威の対象である中国から、その技術や文化、国家のシステムまでもを取り入れ、中国と全く同じ方法で国力を増強した歴史がある。
日本が黒船襲来で感じたのは、致命的な安全保障上の問題。浦賀水道は大型の艦船が通行する通商路。それをアメリカ人は地形を見ただけで判断し、あっさり浦賀に姿を現したのだ。当時の首都、江戸の海からの国防は、南北の沿岸沿いに侵攻してくる敵のみを想定しており、突然太平洋を突っ切って浦賀水道に姿を現すなどという事態は想定していなかった。事実、江戸幕府は黒船襲来を全く予見できず、狼狽えるばかりだった。結果的に明治維新が起こり、欧米風の近代国家が誕生した。
中国がこれに後れを取ったのは、中国が絶えず大国であり、世界の中心であったからだ。自国以上の強国を知らなかった中国政府は、日本ほど危機管理能力を発揮できず、清王朝末期ということもあり、欧米列強にいいようにされてしまった。しまいには、同じアジアの国、日本にまで権益を奪取されてしまうのだから、歴史というものは面白い。そもそも中国の権益を中国ではなく、欧米列強と協議するというのは、よく考えたら、令和の時代じゃあまりにも理不尽な話だ。
なお、余談だが、この時代、普通、大連に行く場合、朝鮮経由の船旅。[朝鮮半島は韓国併合阻止に成功し、大韓帝国は未だ健在]10日間程度の長旅となる。
令和の頃なら飛行機で一撃だが、この時代はそれくらい海外旅行には時間がかかるものだった。でも、私たちは車で会社の近くにある飛行場まで行って、そこからプライベートジェット……ではなく、プライベートレシプロ機[試作スバル製旅客機を破格な値段でお父様に売りつけた]で一気に大連まで来たのだ。多分、令和の時代の宇宙旅行くらい贅沢な旅だけれど、私はうら若き乙女であり、高校生。夏休み期間中に旅行を終わらせる必要があるし、友達との約束もあるのだ。だから仕方ないよね?
「お嬢様、大連見物が終わりましたら、夕食の予定はご指定通り、出光佐三様とでございます」
「ありがとう、茜。彼は必ずや役に立ってくれる人物だと思います」
出光佐三。出光興産の創業者。どちらかといえば、映画にもなった『海賊とよばれた男』のモデルとなった人物として有名だろう。
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