18サラエボ事件
1914年、私は14歳となった。手足は長くなり、すらっとした姿は中々スタイルが良い。
お胸は発展途上だが、今後の発展に期待したい。
「何をそんなに深刻そうな顔で新聞を見ているんだ?」
「オーストリア皇太子夫妻がサラエボで暗殺されたのですわ」
自宅の私の私室で従兄の一樹兄様に話しかけられる。
どうでもいいけど、コイツ、私の恩恵に預かるために、頻繁に私を訪ねて来るの止めてくれないかな?
これでも淑女なのよ、私? まだ十四歳だけどね。
親戚じゃなかったら、お断りしたいわよ。
「それは大変な事件だが、鷹尾がそんなに心配そうにするのは変だろ? お前、金にしか興味ないだろ? 確か・・・お前のいた令和の世界で言うサイコパスってヤツなんだろ?」
「誰がサイコパスですか!」
「だが、話を聞くと、サイコパスってヤツと鷹尾の性格は一致するぞ」
「サイコパスはお前じゃぁ!!!」
ぷんぷんと怒ると、怒られた子犬みたいのシュンとなる一樹兄様。
この人、ほんとズルいのよね。そんなに悲しそうな顔されたら、流石に気まずくなる。
「もう、怒ってないから」
「ほんとか? でも、何故許してくれるんだ?」
「そんなに寂しそうな顔されたら、怒るに怒れないのですわ」
「鷹尾・・・お前、ダメ男に利用されて尽すタイプだな?」
「誰がダメンズ好きですかぁ!」
こいつは、いつもいつも・・・悪気がないのは知ってるんだけどね。
て、言うか、その典型的なダメ男が貴方でしょ?
怒り心頭だが、不毛なので、第一次世界大戦について説明する。
「サラエボで起こったこの事件、今後、どうなると思われます?」
「そりゃ、オーストリアがセルビアを厳しく追及するだろうな。何せ自国の皇太子夫妻が暗殺されたんだから」
「それ処じゃ済みません。背景がもっと複雑ですの。ボスニア系セルビア人の犯人は民族運動が動機ですわ。オーストリアによるボスニア・ヘルツェゴビナ併合が発端となっています。オーストリアが看過出来る問題ではございません。確実に戦争になりますわ」
「あの周辺は戦争ばかりしているから、それの何処が問題なんだ? サイコパスの鷹尾が戦争で犠牲になる人々を心配しているとは思えん」
コイツわぁー! 確かに戦争で犠牲になる人の心配なんてして無いけどー。
でも、それは私がサイコパスじゃなくて、前世で知っている事実で、私にはどうしようもない確定事項だからよ。私だって、神様だったら、何とかしてあげたいわよ。
「今度私の事、サイコパスって言ったら、二度と会ってあげないわよ」
「・・・それは困る」
全く、自分にとって都合がいい女だからと思って、適当に扱わないで頂きたいですわ。
「俺は、鷹尾に忠誠を誓った。だから俺はお前の為になら死ねる」
「ごほんごほん」
突然、何を言い出す? 確かにそんな事言っていたけど、あれマジなの?
て、言うか、この人、私に一生付き纏う気? ちょっとしたストーカーじゃない?
「一樹兄様のお薬でたくさんの人の命が助かったでしょ? だから一樹兄様が私の為に死ぬなんておかしいですわ。ほんとに感謝しているなら、医者らしく、万が一私が病気になったら、それを治すって言う誓約にしてくださらない?」
「わかった、善処しよう。サイコパスの件も可能な限り」
真顔で迫って来て言うな。まさか、コイツ、私の事、好きじゃないだろうな? Likeの方じゃなくて、Loveの方。14歳に惚れているとか、ロリコンだぞ、引くわ。
あれ、でも?
「何でサイコパスの件は可能な限りなのです? 私への忠誠より余程簡単なのですわ」
「俺は嘘が苦手なんだ」
思わずテーブルの上の紅茶を運ぶサービストレイの角で兄様の頭を叩いた。
何か言えよ。不感症かよ。
「鷹尾。遊んでいないで、話を続けてくれ」
コイツ、遊ばれているの、むしろ私の方なのだけど?
「話を続けるわ。オーストリアとセルビアが戦争。その後どうなると思う?」
「オーストリアの方が国力があるから、セルビアが負ける」
「セルビアが黙って負けると思いますの? それにセルビアが負けると困る国がありましてよ」
「セルビアが負けると困る? セルビアはスラブ系・・・そうか、ロシア帝国が黙っていないか!」
「そうですわ。スラブ系の盟主、ロシアが黙っていない。このままではバルカン半島がゲルマン系のオーストリア勢力下に入りかねません。抑止の為に早々にセルビア側に立って、参戦します」
「ちょっと待て。セルビアの背後のロシアが出て来るなら、オーストリアの背後のドイツもか?」
「そうですわ。それ処か、普仏戦争の遺恨が残るフランスもロシア側に立って参戦、イギリスもロシア側に立って参戦となりますわ」
「いや、待て。それじゃ何カ国もが戦争に・・・それに何故イギリスまで? 関係ないだろう?」
私は紅茶を飲み干すと、ゆっくりためを作って言った。これがこの大戦の肝なのだ。
「ドイツがフランスに侵攻する際に道路代わりベルギーを侵攻します。イギリスにとって、この地はドイツとの干渉地帯。この地をドイツに占領されたら黙っていられません」
「じゃあ・・・ヨーロッパ全体・・・が戦争になるじゃないか?」
「おわかり? それに日本は日英同盟を結んでおりますわ。日本もアジアのドイツ領と戦争になります。民族紛争に複雑な同盟関係、それに地政学要衝の問題が複雑に絡む複雑な戦争です。だから、一樹兄様が発明したペニシリンの増産もしなければならないし、我が社のありとあらゆる製品の増産に注力しなければなりません」
「鷹尾」
突然、私の肩を掴んで、迫る一樹兄様。まさかこのタイミングで愛の告白じゃないわよね? 空気読めてない上、一回り・・・それはいいとして、十四歳の私に告白とかドン引き処じゃないわよ。と、思いつつも少しドキドキする。何しろ、私はそういう経験が0の喪女なの。
「大きな戦争が始まると言うのに、商売の事ばかり考えていると、皆にサイコパスだと思われるぞ。少し、女の子らしい、いや、人間らしい感覚を取り戻した方がいい」
こめかみの辺りがプチンと切れた気がした。一樹兄様にだけには言われたくない、心底そう思った。
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