17軽戦車開発
1913年、私は13歳となった。
今日は蒼一郎兄様が尋ねて来る日、楽しみで仕方がない。実の兄でなければ、いえ、あれ程の好男子は私には勿体ない。お顔を身近で見ているだけで尊死できますわ。分を弁えませんと。
そうこうするうちに部屋の扉をノックする音が聞こえた。蒼一郎兄様だ。
「お兄様、お久しぶりです」
「鷹尾、一か月ぶり位じゃないか? 私は薄情な兄なのかな?」
「そ、そんな事は・・・ただ、お兄様に会いたくて、会いたくて、私」
「嬉しい事を言ってくれるね。会いに来る度に相談事を持って来るだけの兄にそんな言葉をかけてくれるなんて、鷹尾には感謝しないといけないな」
「お兄様、そんな他人行儀な事を言わないで頂きたいですわ。一樹兄様など、さして用もないのに、私の恩恵に預かりたいからと、毎週の様にお尋ねですわ。私の事を都合がいい女と思っているに違いないのですわ」
一瞬、苦笑し、笑いだしてしまう蒼一郎兄様。
「一樹も可哀想なヤツだな」
「お可哀想な境遇だとは思うのですが、女の子の力をあてにしている時点で残念な方ですわ」
「いや、そうじゃなくて、いや、何でもない」
そんなに馬鹿笑いしなくてもいいのではないですか? 蒼一郎兄様?
ほんと、一樹兄様も蒼一郎兄様みたいに正直に私の力をあてにしているとか、申し訳なさそうにしていればまだ可愛げがあるのですが、毎週訪問しては医学関連知識の事情聴取に我が家自慢のお菓子を散々平らげて帰ってしまうだけの無神経さには辟易としますわ。
何より、訪問する度に銀座などで珍しいお菓子を求めて、手土産を持って来て下さる蒼一郎兄様との間に気遣いの差を感じます。蒼一郎兄様の爪の垢でも煎じて飲めばいいのに。
「それよりお兄様、本日はどの様な御用向きで?」
「実は参謀本部で新たな塹壕戦の考察をする参謀課が新設される運びとなってね。その課長の任が私に与えられたんだ」
「おめでとうございます! お兄様! 流石兄様です! 一樹兄様とは月と鼈ですわ!」
「一樹はあれでもペニシリン発明でノーベル賞候補になった位の男だぞ? もう少し認めてやったらどうだ?」
「ペニシリン開発は私のアドバイスのおかげですの。それに一樹兄様ならそれ位出来て当然です。努力が足らないのですわ」
何故か蒼一郎兄様はまたしても笑い転げる、何故?
「すまん、すまん。他人事とはいえ、あまりに一樹が気の毒でな。いや、そうでもないか? いかん、それより鷹尾の意見を聞きたいのだが、現在の塹壕戦についてどう思う?」
「塹壕戦ですか? そうですね。現在の塹壕攻略には犠牲が多すぎます。これを防止する新たな兵器が必要と考えます」
「どんな兵器が必要と思う?」
兄様の美しい顔が真剣な顔に変わるのが見て取れる。帝国陸軍の為に必死なのですわ。
その真剣な眼差しはうちゅくしいですわ。私を沼らせるの止めて欲しいです。
つい思考が脱線するが、思考をまとめて返事をする。
「軽戦車ですわ。おそらく西洋ではタンクと呼ばれる兵器が数年以内に誕生しますわ」
「なんだって? 僅か数年で新兵器が誕生するのか? それでは我が国はその開発に遅れを取っているのか?」
「いえ、未だどの国も開発出来ていません。次の大きな戦争で急遽開発されます。それに必要な基本技術開発や特許関連は我がスバル社が習得済ですのでご安心下さい」
驚く兄様。私は来る第一次世界大戦に備え、航空機だけでなく、戦車開発にも意欲を見せていた。
兄様にこれまで言わなかったのは、あまり早い段階で言ってしまうと、外部に漏れ、歴史が変わり過ぎてしまい、私の歴史知識が役に立たなくなる事を恐れたから。
日露戦争の時も優秀な兄様は私の拙い言葉から戦争の内容を激変してしまい、犠牲者を大幅に減らした上、ポーツマス条約ではサハリン全島の権利を獲得するという歴史改変にまでの影響となった。
結果オーライではあるのだが・・・お兄様・・・恐ろしい人。この人にあまり知識を渡し過ぎると世界が征服出来てしまうんじゃないかと心配になりますわ。
それに第一次世界大戦の日本参戦は限定的な筈なので、現状、それ程急ぐ必要もないのです。
「その軽戦車関連の利権は既に鷹尾の会社が持っているという訳か? その軽戦車について詳しく聞かせてくれないか?」
「はい。軽戦車、日本では最初、戦車と呼ばれますが後世では軽戦車に区分されます。日本では欧米で言う戦車と言うべき類の兵器はこの時代、開発されず終わります」
「何故日本では開発されなかったんだ?」
「想定戦場の違いですわ。お兄様・・・日本陸軍の仮想敵は何処ですか?」
「それはロシアだ。それに中国の権益もあるから、中国もかな」
私は理解の早いお兄様に質問形式で尋ねる事にした。
「戦車とは装甲が厚く、火力が大きい自動車です。これに対して軽戦車は装甲が薄く、火力は小さな自動車です。この差からだと言えば兄様ならお分かりになられるのでは?」
「成程! 想定される戦場は中国大陸! それなら欧米に比べて道路や橋が整備されていないから装甲が薄く火力が小さい、つまり軽量で小型の軽戦車になるか!」
「ご名答ですわ!」
私はお兄様に笑顔で答えると、移動して、机の引き出しを開けると一冊のノートを取り出した。
「軽戦車に関する考察資料と、我が社の所有するアメリカのホルト社(後世のキャタピラー社)の履帯及びヴィッカース社製QF 1ポンド・ポンポン砲のライセンスの証書、それに戦車用に開発した200馬力のガソリンエンジンの資料ですわ」
お兄様は私の額にキスを落すと、喜んでお礼を言ってくれた。そして家族で久しぶりの夕食を共にした後、帰宅されましたわ。
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