13伊藤博文暗殺未遂事件抑止
「え? お兄様が満州に派遣される?」
私は茜からお兄様が満州に派遣されるという情報を聞いた。
時に西暦1909年、私は九歳となっていた。
私は歴史に干渉しようと心に決めていた。私が未来視出来る事は既に涼宮家では言うまでも無い事となっていた。
その為、私の意見は涼宮家はおろか、軍部や政治家にも影響を与える事が出来る。もっとも、涼宮家以外の人は、私の未来視の事を知らないので、お父様やお兄様の尽力が必要だった。
「お兄様、満州への御出征、おめでとうございます」
「鷹尾か、また一段と綺麗になったな。兄として嬉しいぞ」
お兄様、気軽に妹を落そうとしないでください。妹じゃなかったら、たいていの女性が秒で落ちていますわ。
ちょっと頬を赤らめてしまい、嬉しくもあったが、今はそれ処ではない。
今年は1909年なのだ。そう、伊藤博文暗殺が満州ハルピンで実行される。
伊藤博文は言わずと知れた日本最初の総理大臣。対外姿勢は慎重派で、韓国併合に反対した人物でもある。彼によれば、韓国併合はこの地の人民のプライドを傷つけ、後々遺恨を残す事になると説いた。
事実そうなったのだから、先見の明があった偉大な人物だ。日露戦争のポーツマス条約も、伊藤の合衆国大統領ルーズベルトへの働きかけが大きく、日本への貢献度は極めて大きい。
日本は韓国からも満州からも手を引くべきだと考えてはいたが、現実的な事を言うと不可避だと思った。
日本が大陸や他国の領土に手を出すべきではない根拠は日本が海洋国家だからだ。
地政地理学という学問があり、それによれば大陸国家は陸続きの広大な国土を持ち陸軍力で領土拡大・防衛を図るロシアや中国のように陸上での安全保障を重視し、海洋国家は海に囲まれ海軍力と海運・交易で国力増進する日本・イギリス・アメリカのように海上交通路の確保と制海権を重視するというものである。
もし、日本が朝鮮半島を併合し、満州をも手中に収めれば、日本は海洋国家と大陸国家のどっちつかずの国となり、結果的に大陸国家の中国、ロシアを敵に回し、海洋国家であるアメリカやイギリスとも敵対する事になる。
特に大国アメリカを敵に回すことは重大な問題で、大陸に触手を伸ばし、国家の勢力を広げれば自然にアメリカの重大な敵と認識される。
私はアメリカとの衝突は、日本が成長する上では不可避な事態という認識でいる。回避するにはアメリカとの友好関係を良好にする必要があるが、史実の日本の様に韓国を併合し、満州で張作霖爆破事件や満州事変を起こす様な暴挙を行えば信用失墜は当然で、友好関係など結べるべきも無い。
かといって、現状ランドパワーとシーパワーの地政地理学を説明したとして、何人の人が理解してくれようか? 周りの人はともかく、大陸進出論が当たり前の現在において、彼ら全員を説き伏せるなど不可能なのだ。
何故なら地政地理学の概念は第二次世界大戦後になるからだ。
・・・ならば。私の出来る歴史改変は韓国、及び満州での悪事を最小限にする事に限られる。
その為の布石が伊藤博文暗殺の阻止だ。伊藤は韓国併合に反対論を唱えた人物ではあるが、初代韓国統監を務めたこともあり、韓国の反日派から疎まれ、暗殺される。
皮肉な話だが、史実における伊藤暗殺犯は韓国で英雄扱い。実際には日韓併合への引き金を引いたにも等しい人物だ。当人に自分の行った事の現実的理解が出来ていたとは到底思えないが、皮肉なものである。
先ずは伊藤博文暗殺を阻止し、韓国併合を阻止する。伊藤への支援を行い、韓国への監督権のみを行使し、伊藤を救う事で伊藤を通じて政治への関与を深める。
また、史実の日本の様に韓国や満州、台湾へのインフラ投資などは止めさせる。そんな余裕は日本にない。日本人は人が良すぎるのだ。植民地にインフラ投資するなどばかばかしい話だ。
イギリスは植民地にインフラ投資をした事はない。ひたすら甘い汁を吸いつくすのみ。
もちろん、中国に行ったアヘンの販売などさせるつもりは無いが、お人よし政策には釘を指し、国内のインフラ投資の方を優先すべきだ。
日本は日露戦争時の対外債務があり、1923年の関東大震災においても多額の対外債務を背負う事になる。人様に施しを行う程の余裕がある国ではないのだ。
お兄様との話に戻そう。
「お兄様、伊藤博文様を暗殺から救ってくださいまし」
私の発した一言が涼宮家のリビングを凍り付かせた。
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