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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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1三極真空管

小さな女の子が横断歩道を歩いていたと思う。そこへ一台の自動車が突っ込んで来て・・・ドンっという音が聞こえた様な気もする・・・次の瞬間に意識が消えたことも・・・想い出した。


明治36年一月、華族、涼宮家の長女、鷹尾として再び生を受けた私は腐った日本を変える為『歴史を改変しよう』と、そう誓った。




「先ずは結線の確認、真空度の確認をして・・・」


私は三歳の誕生日プレゼントにソーダ石灰ガラスバルブ、真空ポンプ、電圧計、電流計、グリット用タングステンの材料と言う、おおよそ三歳児とは思えないプレゼントをおねだりした。


「本当にこの子がこれを作ったのかね?」


「はい。去年の誕生日に奇妙な物ばかり欲しがりましたが、熱意に負けて揃えたところ、三極真空管が出来たと言い出して、藤岡さんに相談した次第です」


私を見守るのは藤岡市助。電気技術者で歴女だった私は彼を知っている。日本のエジソン、電気の父と言われる人、そして東芝の創業者でもある。


電気技術者の世界ではネームド級偉人。


藤岡さんとお父様が見守る中、私は電源のスナップスイッチを押した。


空が茜色に染まり夕焼けの日が指す室内にぼぉっと暖かいオレンジ色の光が指す。


「20mAの電流が400mAに増幅出来ましたわ」


電流計を藤岡に見せる。藤沢は元電源の電流計や電圧計、そして真空管を通った後の電流値を確かめ、ふむと顎に手をやり、感心した様子。だが真剣な表情になり、私に質問して来た。


「この真空管はどんな原理で電気の増幅をしておるのかね?」


やや口調が厳しい。当然だろう、三歳の幼女がこの様な代物を自作できる筈がない。


「白熱電球内でプレートに電流が流れる現象、つまりエジソン効果から発明された二極真空管にグリッドを追加しました。熱せられた陰極のカソードから放出される電子を、陽極のプレートに引き寄せる過程で、その間に置かれたグリッドの電圧をわずかに変えるだけで、プレート電流を大きく増幅する仕組みです。グリッドにマイナス電圧をかけると電子が反発して流れが減り、電圧を弱めると流れが増える、この小さな電圧変化が大きな電流変化を生み出すことで増幅作用が生まれます」


「し、信じられん」


「これはそんなに素晴らしい技術なのですか? 藤岡さん?」


「素晴らしい処か世界初の快挙と言える。昨年フレミング氏が二極真空管を発明し、注目を集めたが、この発明はそれ以上だ」


「発明?」


電気の知識に乏しいお父様は子供の変わった趣味がまさか世界初の発明レベルとは思っていなかった様だ。しかし、私がやっている事を藤岡氏に指導してもらおうと話してくれたらしく、見に来てくれた、という訳だ。


「娘の才能を伸ばしてやりたいと思いまして、やはり藤岡さんを頼って良かった。これからも師として娘を導いてやって頂けると助かります」


「何を言っておられる涼宮さん。娘さんは既に世界屈指の科学者の仲間入りですぞ。それより特許の申請や論文のとりまとめなどを至急進める必要がありますぞ」


「特許? 論文?」


呆けるお父様に藤岡さんは次々に指示を伝える。


「渋沢栄一氏の助力をお願いした方がいいでしょう。東京大学には私から話をつけておきます」


私が前世の記憶を取り戻して、お父様の書斎の本を片っ端から読み始めて周囲を驚かせた。歴女だった私は古い書体の本も自由に読めたので苦労はなかった。


お父様はとんでも無い神童が生まれたと大騒ぎして、たくさんの本を私に買ってくれた。


そして去年の誕生日プレゼントに何がいいと聞かれたので、三極真空管自作の為の材料をおねだりした。この時代、かなり高価な物の筈だが、私の才能を伸ばすために無理をして買ってくれた。


私はお父様に前世の記憶がある。そう言った事がある。もちろん、その時のお父様は幼女の妄想としか思っていなかっただろう。


周りが私の前世の記憶を認めてくれれば、歴史を改変出来る。


思えば、前世の日本は酷い国だった。若い子は就職氷河期を知らないが、長い間景気が低迷した。その原因は戦後のGHQ政策にあると私は考えている。


アメリカに敗戦した日本は新しい憲法や財閥解体、様々な制約を押し付けられた。


そう、日本は経済発展しづらい体制になっていた。それが30年にも及ぶ失われた30年の原因。


私の人生は、あまりにも過酷で酷いものだった。貧しい両親の元に生を受けた私は、幼くして捨てられ、物心つく前から孤児院で育った。周りからは散々馬鹿にされ、見下されながらの日々。それでも、私は懸命に勉強し、大学に進学して人並みの生活を送ることを夢見ていた。ただ、それだけの、ささやかな願いだった。


しかし、現実は冷酷だった。大学を卒業したものの、私を待ち受けていたのは、重くのしかかる奨学金返済と、雀の涙ほどの薄給。就職氷河期世代の私は、まさに時代の荒波に揉まれ、厳しい現実を突きつけられていた。


周りの同僚たちは、仕事そっちのけで合コンや夜遊びに興じていたけれど、孤児として育った私には、そんな浮ついた気持ちになる余裕などなかった。ただひたすらに仕事に精を出し、必死に食らいついた・・・その結果、私を待っていたものは何だっただろうか?


じわりじわりと肌で感じる退職圧力・・・アラサー後半の女など、この会社には不要なのだという、明確な意思をひしひしと感じていた。かつて合コンや夜遊びに夢中だった同僚たちは、皆、とっくに寿退社していった後だった。


・・・そんな、人生のどん底とも言える最中に、それは起こった。私は、危うく車に轢かれそうになった幼い女の子を庇い、中国製の電気自動車に跳ね飛ばされた。そして、その衝撃で投げ出された先、対向車線を走っていたアメリカ製の電気自動車が、私にとどめを刺したのだ・・・。


これを打破するには、中国大陸への介入の制限、アメリカとの非戦が必須。


「私は必ず歴史を改変するぞ!」


私の呟きは二人に聞こえていなかった様だ。

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