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花びらが舞う

 立ち入り禁止の看板。

 その向こうに、雑草と錆だらけの遊具がデンと座り込んでいた。

 昼間なのに、空気は妙に静かで……廃墟独特の“神秘”みたいなやつが漂ってる。


 子供の声が響いてたはずの公園。

 今は風の音しか聞こえない。



 1人、また1人と、足を踏み入れていく。

 俺も……なんとなくつられて入った。

 錆びた鉄棒、剥がれかけのペンキ、背丈を超える雑草。

 廃墟マニアとかなら泣いて喜びそうなシチュエーションだ。



 赤が遊具を見上げてポツリ。

「子供の時はもっと大きく感じたんだけどなぁ」


 いやいや、十分デカいだろこれ。

 展望台っぽい頭、ジャングルジムと登り棒が腕、長い吊り橋が首、筒状通路が背中。

 パッと見ただけでも“龍、寝てます”って構図。

 おまけに途中に広めのスペースとかあるし、なんか意味深。

 全部説明してたらキリないくらい長いしデカい。


 俺は大人になってからこの町に来たから知らんけど、こいつら全員地元出身なんだよな。

 偶然……なのか? いや、偶然で片付けんのも怖い。



 気づけばみんな遊具に登ったり潜ったりして探索してる。通報されたりしないよね?今更だけど。


 唯一、黒だけが俺の横に腰かけてた。

 「疲れたんか?」って心の中で聞いたら、返事しそうな雰囲気でただ座ってる。


 ふと思い出して話しかける。

「そう言えば、大怪人の出現場所って、よく正確に行けましたね。タイミングもバッチリで」


 黒は静かに答えた。

「なに、変身能力と一緒に探知能力のようなものも授けられておる。奴らが現れると、その映像が脳裏に浮かぶ。そしてワープできる、という寸法じゃ」


「……便利すぎじゃない?」


 神様サービス精神旺盛だな。

 けどなんか、ゲームの裏設定っぽくて深く聞く気はしなかった。



 黄がジャングルジムから降りながらつぶやいた。

「やっぱり違うのかなぁ……」


 緑も腕を組んで首をひねる。

「いやぁ、それにしてもでっかいな」


「神様も、見つけたあとどうしたらいいのかまでは教えてくれなかったですもんね」

青が考え込んでいる。気づいたら2人とも遊具から降りてきていた。


 たしかに。見つけたとしてもその後どうしたらいいんだろう?見つけるだけなら楽なんだけどなぁ。

 …こうして眺めてると、龍が地面に寝そべって休んでるみたいだ。




 視線を上げると、赤が展望台に立ってた。

 こうして見てると物語の中の主人公感が半端ないな、絵になってる。


 ……なんて考えていると急に空気がピリッと張り詰めた。


 一瞬間を置いて全員の顔が強ばる。

一般人の俺にも分かるくらい空気が張り詰めた。

まさかこのタイミングでまた大怪人が出現したのか?


「ちっくしょう……」

 赤が小さくつぶやいた。


「まだロボットが……見つかっていないのに……」

青の声は震えている。そりゃそうだ、まだロボットも見つかっていないのにあの大怪人が出たとなれば打つ手なんてないもんな。





『目覚めさせて』


 唐突に頭の中に、女の子の澄んだ声が響いた。


 俺は条件反射で周りを見渡す。

 けど、みんな普通に構えてる。

 ……ってことは、俺にしか聞こえてない?気のせいか?


 

 しかし、考えとは裏腹に足は勝手に動いてた。

 遊具に向かってゆっくりと。なぜかそうしなければいけないと思ったのだ。


 何を言うでもなく、みんなの視線が俺に集まる。


 俺は静かに龍の“顔”に触れた。


「……お前なのか?」


 自分でも驚くくらい優しい声が出た。

 子供をあやすみたいな、落ち着かせるみたいな。

 なんでだろうな。



「どうした!?」

頭上から赤の叫ぶ声が聞こえる。


 返事もせずに俺は頭に響いた声の主と向き合う。そしてただ一言だけ。


「…行ってこい」



 同時に龍が赤く光り出した。


 周りの音が消える。

 本当に“無音”。

 ヒーローたちの口が開いてるのに声が聞こえない。


 光の中で、遊具に見えていた龍が頭をもたげ――

 赤を乗せたまま、空へと舞い上がった。


 赤い花びらのような光が、こぼれ落ちる。それはヒーローたちを包み込むように風に舞いやがて消えていった。

さっきまでの辛そうな、悔しそうな顔は、赤い花びらと共にどこかへ消え、後には自信に満ち溢れるヒーローたちの顔がそこにはあった

 その光景を傍から見ているだけの俺はただ、ただ美しい光景に言葉が出なかった。


「お前らも行ってこい!」


龍が空に昇っていくのを見終えると、下にいたみんなに檄を飛ばす。

何様だって感じだがそうしたかったし、みんなもそれにただ笑顔で答えてワープして行った。


 不思議と、さっきからずっと静かだったはずなのに、みんなが居なくなった公園はさらに静かに思えた。ただ、来た時とは違い、目に映る廃公園はとても暖かい景色に思えた。


「さて、やる事やったし帰ってラジオでも聞いとくか」

まだ一体だけだしロボにはならないだろうけど、それでも戦えているのか気になる。




『ありがと』


 入口まで来たところで少女の嬉しそうな声が聞こえた気がして振り返る。そこにあったのはさっきまで龍に見えていたはずの、今はもうただの錆びた遊具がたたずんでいる廃公園だった。

読んで頂きありがとうございます。

これからも頑張って更新していきたいので応援お願いします。

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