正義戦隊、全員集合!
今日も仕事帰り、スーパーの袋をぶら下げながら駅前を歩いていた。中身は半額シールの唐揚げと、見切り品のキャベツ。俺の夕飯の定番だ。
「よし、今日は唐揚げ丼にしてやるか……」
なんて小さな幸せを噛みしめていたら、急に耳の奥に響くような轟音が鳴り響いた。ビルの向こうから煙が上がり、ガラスが割れる音、逃げ惑う人々の悲鳴。
お約束すぎて逆に落ち着く。ああ、まただな、と。
現れたのは、上半身が人間っぽい筋肉質、下半身はゴツい装甲、頭に時計の針みたいな釘をぶっ刺したような顔をした怪人。
「我が名はクロノスティング! この都市の時間を支配する者だぁ!」
名前つけるセンス、もうちょいなんとかならんのかな……。
でも、そんなこと言ってる場合じゃない。街路樹は吹き飛ぶし、横断歩道の信号機はへし折れるし、周りの人は悲鳴をあげながら走って逃げてる。
俺も逃げなきゃいけないんだけど――もう身体が勝手に悟っている。どうせこの後、ヒーロー達がやってくるんだ。
案の定。
「烈火一閃――変身!」
「解析開始。最適化――変身モード、起動!」
「正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」
「笑いも涙もひっくるめて――変身ドーン!」
「老骨に鞭打ち――変身じゃあ!」
五人揃って一斉に変身。光と炎とエフェクトの嵐。俺は思わず鳥肌が立った。
子供のころからの憧れだ。テレビで見ていた戦隊ヒーローが、いま目の前で同じことをやってる。すげえ、やっぱかっこいい。
でも。
「……いやいやいや。35歳のおっさんが人前でポーズ決めて名乗りとか……無理無理。死ぬほど恥ずかしいだろ」
感動と同時に、変な冷や汗が出る。俺がやったら絶対職場で一生ネタにされる。
赤が烈火刀を抜き放ち、青がランスを構え、黄が銃をクルクル回して、緑がトンファーをガチャーンと鳴らし、黒が渋い槍をドンと地面に突き立てる。
そして――五人揃って大きく叫ぶ。
「正義戦隊――ジャスティファイブ!!」
歓声が周囲から上がる。あの名前って誰が考えたんだろう?神様かな?
しかし、俺も一瞬「うおお……!」って叫びそうになったが、グッと堪えた。いや、ほんとカッコいいんだけど、やっぱ恥ずかしい。俺の中の少年心と大人の理性が大ゲンカしてる。
直後、5人が仕掛ける。
赤の刀が炎を撒き散らし、青の槍が光の軌跡を描き、黄の銃弾が閃光を生む。緑は相変わらず「ポカーン!」とか「ピコーン!」とか効果音を撒き散らしながら敵を殴り、黒は渋く一突きで押し返す。
でも、敵も強い。
「我が時間の牢獄からは誰も逃れられぬ!」
叫ぶと同時に、空気がグニャッと歪んだ。視界がスローモーションみたいに遅くなる。
赤が必死に刀を振ろうとするけど、まるで水中にいるみたいな動き。青も黄も緑も黒も、声は出てるけどスローすぎて聞き取れない。
町の人たちも避難途中で動きが止まってる。
そんな中で。
俺だけ、普通に動けてた。
「……え?」
辺りを見回すと、怪人が俺を見て固まってる。
「お前……なんで普通に動いてるんだ?」
「いや、なんでって言われても。俺が聞きたいんですけど」
「この時間停止の檻の中で……なぜだ……?」
「知らねえよ。俺だってなんで毎回こんな巻き込まれるかわからんのに」
一瞬、沈黙。
ヒーロー達はスローでジタバタしてるし、怪人と俺だけが普通の速度で向かい合ってる。
「……お前、何者だ?」
「ただの買い物帰りの三十五歳です」
「いや絶対嘘だろ!」
もうなんなんだよ、この状況。
怪人が困惑してる間に、俺の中で妙な感情が芽生えてきた。
……殴れるんじゃね?
いやいや、普通殴らんだろ。相手怪人だぞ。どう見てもゴリゴリのバケモンだぞ。でも、目の前で赤が必死に刀振ってるのに、スローモーションで全然届かないの見てたら……なんかイライラしてきた。
「……ええい、ままよ!」
思い切って拳を振り抜いた。
ドガッ!
「ぐほぉっ!」
怪人が吹っ飛んだ。え、マジで!?
その瞬間、空気の歪みがパァンと弾けて、時間の流れが元に戻った。
ヒーロー達が一瞬驚愕して俺を見るがこの好機を逃す手はない。
怪人がヨロヨロ立ち上がったところで、赤が叫ぶ。
「今だ!行くぞ!」
五人がそれぞれ武器を構え、必殺技を放つ。
「烈火一刀両断!」
「フロスト・ピアース!」
「フルバースト・ジャスティス!」
「笑撃インパクト!」
「玄武突!」
五色の光が一点に収束して、怪人を飲み込んだ。
「ぐあああああっ!! 時の王があああああっ!!」
爆発。この爆発の被害もそこそこ大きいのではとか考えるが、うん、やめておこう。
被害と言えば戦隊モノあるあるの巨大ロボなんかは町を破壊しまくってるよな。
煙と光の中で、ジャスティファイブの五人が立っている後ろ姿を眺めながらそんなことを考える。
観衆から大きな拍手と歓声があがる。
その中で俺は、買い物袋を抱えたまま、呆然と立ち尽くしていた。
「……いやいや。なんで俺、殴っただけで勝てるんだよ」
心の中で、ツッコミが空しく響いた。
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