黒きベテラン、体力ゲージ赤点滅
「……これが、わしの……新しい姿……!」
黒レンジャー――城ヶ崎権三さんが、自分の全身を包む漆黒のスーツに視線を落とした。
胸を震わせるその様子を、俺は少し離れた場所から呆然と見つめていた。
六十八歳。定年を過ぎたおじいちゃんが、こうして俺たちと同じ「戦士」として立っている。
……正直、かっこいい。
でも、そんな感慨に浸っている暇はなかった。
目の前に立ちはだかるのは――鼻先に巨大なドリルを備えた怪人、《ドリルサイ男》。
ギュルギュルと轟音を鳴らしながら、奴は不敵に笑った。
「グルルル……人間どもよォ。俺サマのドリルで、地の底までブチ抜いてやるぜェ!」
アスファルトを突き破り、破片が宙を舞う。
鋼鉄の怪物――その迫力に、俺は思わず息を呑んだ。
「うおおおお! 待っとれ、この老骨の力――見せてくれる!」
権三さんが老槍・玄武を構え、突撃する。
「玄武突――連打じゃあああ!」
槍先がドリルサイ男に雨あられのように突き立ち、火花が散った。
――速い! 年齢を完全に裏切るスピード。
「じ、じいさんのくせに速ェ!?」
怪人が驚き、俺たちも思わず息をのむ。
だが。
「ふぅ~~~~……」
権三さんはその場にしゃがみ込んでしまった。
「……え?」
美咲さんが声を漏らす。
ドリルサイ男も首をかしげた。
「……ん? どうした、じいさん?」
「……疲れた。ちょい……たんま」
全員が固まった。
「声ちっさ!!体力無っ!!」
思わずツッコミを心の中で叫んだ。ヒーローが変身して一分で「休憩」って。
小刻みに肩で呼吸してるじゃん、あっ咳き込んでる。
陽翔が烈火刀を抜き、澪が氷の槍を構え、美咲さんが銃を掲げ、悠斗さんがトンファーを回す。
それぞれの必殺技が火花を散らす――だが、ドリルサイ男の猛攻は止まらなかった。
――ガシャン。
奴の両腕が展開し、無数の拳大のドリルがせり出す。
次の瞬間。
ドシュッ、ドシュシュシュシュ――ッ!!
ドリルの乱射。まるで鉄の嵐。
俺たちは必死に迎撃するが……数が多すぎる。
「ぐっ!」
「キャアッ!」
「ぬおおっ!」
仲間たちが次々と吹き飛ばされる。権三さんも例外じゃない。
気づけば俺だけが立っていた。
「……これで終わりだァ! 俺サマのドリルは――容赦しねェ!」
ドリルサイ男が高笑いしながら、最後の弾を撃ち放つ。
そのうちのひとつが――俺の額めがけて真っ直ぐ飛んできていた。
「……へぁ??」
思わず声が出た。背筋に冷たい汗が伝った。
(あ、これは当たったら死ぬな……俺死んだな)
脳裏に冷静すぎる直感。
今までの怪人の攻撃は静電気だのなんだのと、ちまちました攻撃だったから多分効かなかったんだろうけどこれはさすがに。
ヒーローたちの必死の声も遠くに聞こえる。
「逃げて! 大地!!」
「避けろ! 今すぐ!!」
「大地くんっ!」
「大地さんっ!!」
あっ身体が動かない。
迫るドリル。轟音。目の前。
――ぎゅっと目を閉じた。
……ポスッ。
「……へ?」
痛みはない。
代わりに感じるのは……妙に柔らかい感触。
恐る恐る目を開くと――回転するドリルが俺の額に「ちょこん」と押し付けられている。
人生で1番の恐怖映像だわこれ!!!
火花と轟音を撒き散らしながら。
「!?!?!?!?」
俺自身が一番混乱していた。
周囲は凍りついていた。
怪人もヒーローたちも、全員が「理解不能」の顔。
「な、なんだとォ!? 俺サマの必殺ドリルが……効いてねェだと!?」
ドリルサイ男の絶叫を背に、俺は額に当たっていたドリルを恐る恐る掴んだ。
手がズタズタになりそうで怖い~!!…けど額の感触からしたらもしかして…。
軽い。回転しているはずなのに、おもちゃみたいに軽い。
「……返すわ」
俺はそのまま、ぽい、と投げ返した。
ドリルは真っ直ぐ飛び、怪人の胸を貫いた。
「グッ……がはァァァ!!?」
鋼鉄の皮膚を易々と突き破り、奴は膝をついた。
「今だ――!」
陽翔が烈火刀を構える。
「烈火一刀――両断ッ!!」
炎の斬撃が炸裂する。
「フロスト・ピアース!!」
澪の氷槍が突き刺さり、凍結が広がる。
「フルバースト・ジャスティス!!」
美咲さんの光弾が撃ち抜く。
「笑撃インパクトォ!!」
悠斗さんのトンファーが衝撃を叩き込む。
「玄武突――一撃必殺!!」
権三さんの老槍が最後に貫き、怪人の動きを止めた。
次の瞬間――爆散。
辺りに静寂が訪れた。
煙の中で、俺は呆然と呟いた。
「……え、今の何?」
「逆に聞きたいよ!」
陽翔が叫ぶ。
ヒーローたちが集まってきた、逃げ遅れた!
「ドリルを掴んで投げ返すとか……物理法則どうなってるんですか」
澪が顔を引きつらせる。
「いやいや……大地くん、秘めたる才能が……?」
美咲さんは半信半疑。
「おいおい、笑いどころじゃなく命の危機だったっすよ!? ……でもオチ的には完璧っすね」
悠斗さんは苦笑い。
「ふぅ……本当に無傷とは……」
権三さんはしみじみと呟いた。
俺は――困惑した笑みを浮かべるしかなかった。
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