そして5人がそろう時
夕飯の材料を買い込んで、片手にスーパーの袋をぶら下げながら歩いていた。
イヤホンからはテンポのいい曲が流れ、スマホ画面には猫動画。
俺にとっての「平和なひととき」だ。
人混みがざわざわと逃げるように動いているのは、なんとなく見えていた。
でも「セールでも始まったんだろ」と思い、特に気に留めなかった。
次の瞬間。
「……へ?」
気づいたら、すぐ横にいた。
ヌルヌルした体表、ビリビリ光る触手、意味不明なフォルムの化け物。ぶわっと汗が吹き出す。キモイ!キモすぎる!
電柱を溶かす雷撃をまき散らしながら、俺の真横で唸っていた。
心臓が跳ねる。
けど驚きの声は小さくて、なんか反応がワンテンポ遅れた。
「……え、なにこれ、着ぐるみショー?」
そう呟いた瞬間、怪人が俺に向かって触手を振り下ろした。
青白い稲妻がほとばしり、雷鳴のような轟音が鼓膜を打つ。
――ズガァァン!!
閃光に包まれた俺は、思わず目をつぶった。
……しかし。
「痛った!静電気!?」
痛みは全身に走った。けどそれは――まるで静電気。
冬場にドアノブ触ったときの、あのパチッとする感じが延々続いたような……とにかくビリビリして嫌なだけ。
思わず手を振り上げた。振り払うように、持っていたスーパーの袋ごと。その袋が――偶然にも、怪人の顔面を直撃した。
キャベツの重みと瓶ジュースの硬さが、ベチン!と音を立ててぶつかる。
怪人は「ギギャアアァァァ!」と叫び、全身から火花を散らしてのけぞった。
まるで回路がショートしたみたいに、体をビクビク痙攣させる。
「え、ちょ……なに? やばい? 倒れた? 俺なんかした?」
俺は袋をぶんぶん振り回しながら後ずさる。
周囲では赤・青・黄・緑のヒーローたちが戦っていて、戦場の真っ只中だとようやく気づいた。
赤の少年が炎の剣を振るい、青の少女が冷静に槍を構え、黄色い軍人のお姉さんが銃を撃ち、緑の芸人兄ちゃんがトンファーで殴りながら笑いを取っている。
そんな中――俺は怪人の必殺電撃を「静電気」だと勘違いして、キャベツ袋で払い落としたらしい。
怪人はキャベツで致命傷を受けたらしく、ヒーローたちの必殺技が見事に決まり、戦いは派手に終結したのだった。
「いやいやいや……俺、ただの買い物帰りだから!」
……俺は一生懸命に買い物袋からこぼれ落ちた食材を拾い集めながら言い訳をした。
マジで俺じゃない。俺はただの通行人だ。
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電撃ウナギ男が倒された翌日。
俺は商店街の裏道を、昨日のことでまだモヤモヤしながら歩いていた。
「ほら、あの人よ。次のヒーローに選ばれるんじゃないかって噂の人!」
昨日から周りの視線がやたら熱い。
子供から「新しいヒーローだ!」なんて指さされ、大人からは「陰で支えてたんだろ?」と勘違いされる。
違う。俺は選ばれてもいないただの通行人なんだ。
そんな俺の横を、一人の老人が歩いていた。
「こんにちは、いつも大変ですなぁ」
白髪を綺麗にオールバックにした背筋の伸びた、和服姿の老人が笑いかけてくる。買い物袋を提げ、どこか風格がある。
名前は――たしか…城ヶ崎権三さん。
近所では優しくて有名なおじいちゃんだ。なんでも昔は槍術の師範をしていたとかでかなり強いらしい。
「はぁ、まぁ…」
俺は後頭部を掻きながら苦笑いで返事をした。
強くもないし支えてもいない、そもそも選ばれてなんてないのにヒーロー扱いされてるとか恥ずかしすぎる。
その時だった。
「グギャアアアア!」
怪人の咆哮。
今回は体表が鉄板のように硬く、頭部には巨大なドリルを生やした「ドリルサイ男」が商店街を蹂躙していた。
またかよ……。俺は頭を抱えた。
赤、青、黄、緑が次々に駆けつけ、変身して戦い始める。君たちいつもタイミング良すぎない?
火花と爆音が飛び交い、またも市街地は戦場と化した。
その場に立ち尽くす俺と、権三さん。
次の瞬間、光が差し込んだ。
『これは!ヒーローに選ばれる時のやつ!』
俺は全身が震えた。
『……俺か? とうとう俺か? 俺の時代が……!』
俺は心の中で叫ぶ、拳に力が入る!
そして光は俺の……足元をかすめ、そして―近くの権三さんを包んだ。
「なっ……なんじゃ!」
神の声のような、不思議な響き。
―選ばれし者よ。闇を払う黒き守護者となれ―
「…仕方ないのう、老骨に鞭打ち――変身じゃあ!」
権三さんは右腕を掲げ、叫んだ。
一瞬光ったかと思うと次の瞬間そこには漆黒のスーツを纏った黒レンジャーが、妙に年季の入った長槍を携えて君臨していた。
ノリノリじゃねーか!
黒レンジャー、爆誕。
俺は膝から崩れ落ちた。
(そっちかよおおおおおおおお!!)
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