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黄レンジャーの考察日記

私、東雲美咲――サンシャインイエロー、25歳。元軍人の私は職業柄仲間の中で自然とまとめ役になりがちだ。


 最初は赤レンジャー神崎陽翔と、青レンジャー姫野澪。そこに私が合流して三人チームで戦ってきたが、最近ようやく緑レンジャー笹倉悠斗が正式に仲間入りした。


 悠斗は27歳。元ピン芸人。集中を乱し、動きを止める。お笑いで生きてきた彼ならではのスタイルは「空気を和ませ敵を無力化する力」だ。

陽翔の直情的な性格、澪の冷静すぎる分析、私の軍人気質。それらがぶつかり合って重苦しくなりそうな場面でも、悠斗が「いやいや! そんな深刻な顔すんなって!」と軽口を叩くと、不思議と場がほぐれる。結果、チーム全体の呼吸が合う。戦闘における彼の役割は、それ以上に大きい。


 ……そして、忘れてはならないもう一人。藤原大地。


 彼は仲間ではない。少なくとも、公式には。だけど私たちはもう、大地をただの「通りすがり」だと片付けられなくなっている。


 初めて彼を見たのは、怪人の攻撃を真正面から受けながら無傷で立っていたとき。炎も氷も、鋭い爪も牙も、彼には通じない。どれほどの破壊力を持つ技でも、大地は「うわっ! 痛ぇな!」と肩を払う程度。私たちが何度も命懸けでしのいできた攻撃を、彼はまるで日常のトラブルのように受け止めてしまう。


 陽翔は単純に「やっぱりあいつも正義の仲間だ!」と大はしゃぎ。澪は冷徹に「解析不能な現象、今後も観測を継続する」と記録をつけていた。悠斗は「芸人仲間でもあんな強靭なリアクション芸は見たことない」と、なぜか芸の枠に分類している。


 私はというと……正直、複雑だ。軍人時代、私は「人は攻撃を受ければ傷つく」「守るためには力が必要」という現実を学んだ。その常識を根底から覆す存在が大地だ。彼は力を持っていない。武器も訓練も必殺技もない。だが怪人の攻撃を無効化してしまう。


 不思議なことに、彼の存在は私たちに「余裕」を与える。大地が近くにいれば、最悪自分が倒れても彼が生き残るだろう、という安心感がある。命を張って戦う以上、それは大きな支えになる。


 けれど同時に……彼自身は戦う意思など全くない。ただ「巻き込まれただけ」だと必死に主張している。実際、彼の行動は一貫して「逃げる」か「慌てる」かだ。


 ――それでも。


 私たちが怪人に押され、苦しい局面に追い込まれるたび、なぜか大地が事件のど真ん中に立っている。そして彼の無意識の行動が、結果として戦局を変えてしまうのだ。


 運命なのか、偶然なのか。少なくとも私は、もう彼を「ただの一般人」とは思えない。


不穏な気配を纏いながら、その怪人は姿を現した。

 全身がぬるりとした鱗で覆われ、背中からは絶えずバチバチと電流を迸らせている。ヒレのような腕を振るうたび、商店街の看板や電柱が弾け飛んだ。名を「電撃ウナギ男」。見た目のインパクトだけで、子供は泣き出し大人は逃げ惑う。

うん、正直キモイな。


「出やがったな!」

 陽翔が刀を抜き放ち、炎のような眼差しを向ける。


「烈火一閃――変身!」

 炎が迸り、少年は一瞬にして赤き戦士へと姿を変えた。


「解析開始。最適化――変身モード、起動。」

 冷徹な声とともに澪の身体を青い光が包み込み、槍を携えたクールな戦士へ。


「正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」

 私も拳を握りしめ、銃を掲げる。光の輪が広がり、黄金の戦士として姿を現した。


「笑いも涙もひっくるめて――変身ドーン!」

 悠斗はド派手に叫び、効果音を伴ってギャグトンファーを構えた。緑の戦士として、彼も参戦する。


 四人の影が並び立つ。

 その姿はまるで舞台の幕が上がる瞬間のようだった。


「電撃ウナギ男! ここでお前を止める!」

 陽翔が叫び、烈火刀を構える。

 そして私たちの戦いが始まった。


 赤は斬撃、青は分析と突き、私は光弾で牽制、緑はトンファーで殴りつける。

 しかし怪人の電撃は想像以上に強力で、私たちを何度も吹き飛ばす。


「くっ、火力が高すぎる!」

「データ値、常軌を逸してる……!」

「ギャグ音も通じねぇのかよ!」

「全員集中しろ!」


 四人は必死に耐えながら戦っていた。


 ――その時だ。


 何の前触れもなく、一人の青年が商店街の角を曲がってきた。

 イヤホンで音楽を聴きながらスマホをいじり、片手にはスーパーの袋をぶら下げて。


 藤原大地。

 まるでいつも通りの買い物帰り、戦闘など一切眼中にない様子で。


「おいおいおい……嘘でしょ……」

 私は銃口を向けたまま、思わず呟いた。


 次の瞬間、大地は怪人のすぐ横を平然と通りすぎようとし――。


「ビリリリィィィィィッ!」

 電撃ウナギ男の触手が直撃した。


 轟音と閃光。だが。


「……へ?」

 大地はイヤホンを外し、眉をしかめるだけだった。髪が少し逆立ち、ほんのり焦げ臭い。けれど本人はまるでかすり傷すら負っていない。


「痛って!静電気!?」

 彼はスマホを片手に耳を押さえ、もう片方の買い物袋を持った手で鬱陶しそうに怪人を振り払った。


 ――ズガァァン!


 その袋が怪人の顔面に直撃。

 キャベツがゴンと片目に入り、瓶ジュースがカーンと額にヒット。


「ビリリリリリィィィィィッ!?」

 怪人は絶叫。電流が暴走し、全身を痙攣させて黒煙を上げる。


 あまりに間抜けで、信じられない光景だった。


「え、ちょ、俺なんもしてねぇからな!? 勝手に当たったんだって!」

 大地は慌てて弁解しながら、袋から転がり落ちたキャベツを拾い集めていた。


「今だ、仕留める!」

 私が声を張り上げ、四人が同時に必殺技を放つ。


「烈火一刀両断ッ!」

「フロスト・ピアース!」

「笑撃インパクトォ!」

「フルバースト・ジャスティス!」


 光と炎と氷と笑いが一つに重なり、電撃ウナギ男を完全に吹き飛ばした。

 商店街に再び静寂が訪れる。


「……いやだから、ホント俺は歩いてただけだから!」

 大地はなおも手を振りながら、落ちたキャベツを必死に袋へ戻していた。


 陽翔は「やっぱり大地も俺たちの仲間だ!」と満面の笑み。

 悠斗は「これが本当の“袋叩き”ってやつだ!」と笑い飛ばし、

澪は「……統計上、彼の存在は戦況の変数として不可欠」と真顔でメモを取っていた。


 私は銃をホルスターに戻し、思わずため息をつく。

 本当にこの男だけは、常識という枠の外に生きている。

読んで頂きありがとうございます。

これからも頑張って更新していきたいので応援お願いします。

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