戦士たちの休日は胃袋から
朝、起きた瞬間、腰が「ゴリッ」と鳴った。
……やべえ、昨日の怪人戦のダメージだ。
でも不思議なもんで、痛みよりも先に浮かんだのは「あの人、祭りの後どうしてたんだろ」っていう疑問だった。
守られる側だった俺が言うのも変だが、あの人の動きはもう人間やめてるレベル。あれで今日も普通に過ごしてるんだろうか。
布団の中でうだうだしてたら、スマホが震えた。
画面には「陽翔」の文字。
『昼メシ行くぞ。澪と美咲もいる。おごりだ』
おごりと聞いた瞬間、腰の痛みは奇跡的に治った。
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集合場所の喫茶店に着くと、入り口からコーヒーの香りが漂ってくる。
中に入ると、赤レンジャーの陽翔が満面の笑みで手を振ってきた。
「おー悠斗! 座れ座れ!」
その横では、青レンジャーの澪がメニューとにらめっこしていて、黄レンジャーの美咲さんはすでにサンドイッチを頬張っている。
「お前ら、集合時間から何分経ってると思ってんだ」俺が笑うと、陽翔は胸を張って答えた。
「正義の戦士に時間制限はない!」
「……ただの遅刻魔だろ、それ」
全員が注文を終えると、昨日の祭りの話に。
「しかしさぁ、悠斗。昨日のお前、ピン芸人のクセに命張りすぎだろ」
「クセにって何だクセにって!」
美咲さんがニヤリと笑い、「まあでも、笑い取るより動きはキレてたな」と言う。
澪はストローをくわえながら「筋力データ、一般成人の1.5倍。訓練歴ありと推測」とか理系みたいなコメントをしてきた。
「訓練歴って……ボケとツッコミの練習しかしてませんけど」
「それ、意外と体力いるもんだぞ」陽翔がなぜかフォローしてくれる。
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食事が運ばれてくると、陽翔はすかさずカツサンドを頬張り、口の端にソースをつけたまま言った。
「俺、昨日の戦闘中に団子食ってたんだぜ」
「お前、それ戦闘の合間じゃなくて戦闘“中”じゃん」
美咲さんが苦笑し、「私はその間にたこ焼き食べました」
澪は真顔で「糖分補給のため、私はかき氷」と言う。
「お前ら、もしかして昨日のお祭り、戦いより食い物メインだっただろ」
「任務も胃袋も、どっちも全力だ」陽翔がドヤ顔で断言した。
そんなこんなで、食事はほとんどグルメ談義で終わった。
会計時、本当に陽翔がおごってくれたので、俺は素直に感謝……しようとしたが、次の瞬間、陽翔が言った。
「よし、次は俺んち集合で鍋な!」
「財布が死ぬぞ」
「大丈夫、材料費はお前持ちで」
「おごった意味ゼロじゃねぇか!」
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店を出ると、商店街で青空市が開かれていた。
陽翔が真剣な顔で焼き鳥を選び、美咲さんは試食コーナーで唐揚げを頬張り、澪は野菜売り場で「このナスの曲率が美しい」とか意味不明なことを言っていた。
俺もつられて焼き菓子を買った。完全に祭りの続きだ。
別れ際、陽翔が俺の肩をぽんと叩く。
「悠斗、昨日みたいな無茶はほどほどにな」
「はいはい」
本気で守られるのも悪くないけど、このメンツにいるとつい調子に乗っちまうんだよな。
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帰宅後、机の上のネタ帳を開くと、昨夜半分寝ながら書いたメモがあった。
――ヒーロー+屋台飯漫才。
自分で書いておいて意味がわからない。
でもまあ、このメンバーならネタに困ることは一生なさそうだ。
ふと窓の外を見ると、昨日の祭りの提灯がまだ半分ぶら下がっていた。
たぶんまた俺たちは、あの人も一緒に、こういう日常と非日常を行ったり来たりするんだろう。
……まあ、その合間に団子食ってても、きっと許される。
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