第一話 ただの通りすがり、のはずなんですが
『1年前、この世界に突如として現れるようになった異界の門。そこからは怪人と呼ばざるをえない異形の存在が現れるようになりました。怪人は「世界征服」をうたっており、建物を破壊し人々を殺し世界を恐怖に陥れました。しかしその時、天空から一筋の光が降り注ぎ、特別な力を神から授かった者が世界を守る為に立ち上がりました。』
――らしい。
新聞やニュースが毎日のようにそう報じる。俺自身も、もう何度となくその現場に立ち会ってしまったから、いちいち驚きもしない。
「ガシャーン!」
問題はだ。別に選ばれた勇者でもヒーローでもない、ただの一般人であるこの俺なんだが、なぜか妙に戦闘現場に巻き込まれる確率が高いってこと。
「きゃあぁぁぁ!!」
あぁ、まさに今俺の目の前で、さっきまで普通に買い物をして店を出たばかりの俺の目の前で、怪人が出現してカオスな状況が生まれている。
「きゃっきゃっきゃ、人間よ!逃げまどえ!このあたし様がお前らに恐怖を与えてやっているのだから!このアラク様がねぇ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
返して俺の幸せな日常...
お気に入りのポテチと食材をこれまた気に入っている近所の商店街で買って、袋をぶら下げながら「今日の晩酌はポテチとハイボールだ」と、ルンルン気分で帰宅途中だった。
それがどうだ、店から出たとたん空気がビリビリ震えて、目の前の空間がピシッと音を立ててひび割れて。あっという間に今のこの状況だ。
「……あー……もう。これで何回目だよ」
思わず空を見上げてため息が出てしまう。
裂け目から出てきたのは。大きな蜘蛛、人のような上半身が蜘蛛の頭の上に生えているバケモノ。おおきさは軽自動車くらいのサイズ。人間っぽい部分からはわからないが、声から考えると女性?(バケモノに性別の概念が通るなら)お決まりの展開すぎて、俺はため息しか出なかった。
怪人は胸を張り、腹の底から咆哮をあげる。その時だけは男とも女ともつかないような混じった声が響く。
怪人が咆哮をあげたと同時に、鮮やかな赤いスーツの青年が駆けつける。
その見た目はニチアサとかでやっているヒーロー戦隊そのものだ。
「この街は俺が守る!」
――赤レンジャーの神崎陽翔くん。遭遇するのはこれで何度目だろう。
正義感が強くていい子なんだけど、まあ、毎回ボコられてギリギリ勝つって流れが多いんだよな。
案の定、彼は剣を構えて飛びかかるが、アラクの脚で軽く弾かれて壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
呻く声がスーツ越しに響く。
(ほら見ろ。だいたいこうなるんだよ)
俺は逃げるべきなんだろうけど……もう学習済みだ。どうせ逃げても巻き込まれる。
それに、陽翔くんがやられてるのを見過ごすのも後味が悪い。
「必殺――血牙裂断波!」
怪人の口から赤黒い衝撃波が放たれる。建物が粉砕され、地面がえぐれた。
陽翔くん、避けきれずに片膝をつく。かなり危ない。
気づけば俺はコンビニ袋を地面に置き、怪人に石を投げていた。
「……なんだ貴様は」
怪人が眉をひそめる。
「いや……通りすがりで……」
「ならば死ね!血牙裂断波!」
!? 赤黒い衝撃波が再び放たれる。
「大地!!危ない!!」
「...あーー!うるさい!!」
拡声器で耳元で叫ばれた気分だ。耳が若干聞こえないっつーの。
「……!?」
「……へ?」と陽翔くん。
えーっと。なんでこんなんであいつも商店街も破壊されてんの?
「な、ならば! 必殺――地獄雷滅撃!」
全身から黒い雷が走り、俺を直撃。看板が吹き飛び、路面が焦げる。
うん……ちょっと熱い。いや、むしろ銭湯の電気風呂の方が刺激強い。
「……あー首の凝りと腰痛が少し良くなったかも。ありがと」
思わず口から出た言葉に、怪人が絶句する。
俺は仕方なく、軽く腹を小突いた。指で押すくらいの力だ。
それだけで、アラクは数メートル吹っ飛び、電柱をへし折って転がり、消えていった。
陽翔が目を丸くしている。
いや、俺だって丸くしたい。何度やっても慣れないんだよ。
「...あー、じゃ、俺はこれで。」
袋を拾い、足早に現場を離れる。背中に「お、おい! 大地!?」って声が飛んできたけど、振り向かない。
神様が選んでくれていればヒーローとして活躍したいけど、ほんと今はまだ、ただの通りすがりでしかないんだ。目立つのが恥ずかしすぎる。
帰り道。俺はぼんやり考える。
さっきの怪人の攻撃、普通の人なら即死レベルだろう。
なのに俺は「ちょっとうるさい」「電気マッサージ」程度で済む。
俺、もしかしたらこの先神に選ばれたりして。
ちょっと憧れるんだよな。
赤レンジャーみたいに「この街は俺たちが守る!」って言ってみたい。
……まあ、言うだけタダだし、夢のまた夢ってやつだけど。
その夜。
テレビのニュースでは「謎の通りすがりの男性が怪人を撃退!」って報じられていた。
映像には俺の後ろ姿がバッチリ映っている。コンビニ袋持ったまま歩き去る姿。
「……いや、どこでカメラ回ってたんだよ」
街の子供たちが「通りすがりのおじさん、かっけー!」ってはしゃいでるのも聞こえた。
……いや、せめてお兄さんて呼んで。
読んで頂きありがとうございます。
頑張って更新して行けたらと思いますので応援お願いします。
ちょっと修正しました。