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後編


「………と言う事がありましたの」


 時は過ぎ、場所はラングリア侯爵家の一室。


「まぁ、(アラン)の言う事は理解できますがね?誰かさんが毎回「僕」に喧嘩を売りに来なければ、ああはなりませんから」


 二人分のカップにお茶を注ぎながら溜息を一つ。

 侍女は「いつも」のように下がらせている為、二人の会話を聞く者はいない。


「なっ!私だって好きで苦情を言っている訳ではありませんわ!だいたい貴方だって同じではなくて?」


 スッと、目の前に出された紅茶を取りながら頬を膨らます「メリッサ」。

 そんな彼女を見下ろし、立ったままソーサーからカップを取り紅茶を口にする「カイザック」。


「まったく、ドレスを着ている時くらい、その生意気な口を閉じなさい。淑女としてどうかと思いますよ?」

「歳上だからと偉そうにしないで!」

「まぁ、歳上には違いありませんから?」

「その上から目線止めてくださる?だいたい、歳は一つしか違わないですわ!」

「一つでも歳上は歳上でしょう?」


 城では仕事内容で散々言い争いをしているが、それは副団長として対等だから。


 だが、今はまるでメリッサを幼子の様に扱うカイザック。

 それもそのばず。


「まったく、我が「婚約者殿」は…本当に可愛いですね」

「ヒッ!」


 カップをテーブルに置き、ソファーに座るメリッサを正面から見下ろす形で座面に片膝を乗せるカイザック。


「怖がらなくてもいいでしょうに…少し、いや、かなり傷つきましたよ?」


 そう、実はこの二人「婚約者同士」なのだ。


 王命(おせっかい)により決められたのだが、二人は騎士団と魔法師団の副団長。部下に気を遣わせる可能性が高いと言う理由から、その事実は各団長しか知らない。

 まぁ、騎士団に関して言えば、団長はメリッサの父親。娘が不安にならない様にと言う、団長の職権乱用も含まれている。

 実は、婚約の話自体、二人が幼少期から両家で上がっていた。だが、メリッサが難色をしめしていたので中々話が進まなかった事実がある。


 そんな中、今年王命により二人の婚約が決まったのだが…。


 実は、兼ねてよりメリッサを狙っていたカイザックにとっては願ってもない話だった。

 カイザックは幼少期よりメリッサにベタ惚れであり、その実はかなり変態的と言っても良かった。


 つまり、メリッサが難色をしめした理由はソコ。

 メリッサ自身、カイザックに好意が無いかと言われたらウソになる。

 だが、いかんせんカイザックはメリッサの事となると変態的な思考を発動させるのだ。


「メリッサ?君はやっと「僕」を手に入れたと言うのに………嬉しく無いんですか?」


 いや、何言ってんだコイツ!

 メリッサは喉から出そうになった言葉を飲み込んだ。多分…いや、絶対言ったら後が怖い。


「カイザック…私と婚約できて嬉しいのは貴方でしょ?」

「まぁ、それは違いありませんが……メリッサは嬉しくないと?幼少期に僕のお嫁さんになりたいって言ってたのはウソなんですか?」

「嘘じゃないし、その……貴方に好意が無い訳ではないですが、やり過ぎな面が多々ありますでしょ?」


 そう、先日もガッツリやられたばかりだ。


「あぁ、コレですか?」


 そう言うど、カイザックはメリッサの顎を掴み、顔を自分に向けさせると、無理やり彼女の口を開かせた。

 メリッサの口内、舌の上にはカイザックの魔力に反応するように刻印が淡く輝いている。


「あぁ、本当に綺麗だ」


 メリッサは、カイザックの幸せそうな笑みに泣きそうになる。

 これこそ、先日カイザックによりガッツリやられたヤツである。


 先日、メリッサは初めて彼から口付けを落とされた。

 それだけならまだ良かった。

 婚約しているし、カイザックの事は嫌いでは無い。

 だが、その後がいけなかった。

 カイザックは、口付けの最中、よりにもよってメリッサの舌の上に己の刻印を刻み込んだのだ。


 魔法師なら誰もが自分の刻印を持っている。

 それは魔法に長けたメリッサ自身も同様。

 その刻印を所有印として、カイザックはメリッサに刻み込んだのだ。

 因みに、刻印は魔力を持つため、刻み主のカイザックが魔力を使う度に反応し、淡く輝きながら浮かび上がる。


 と言う訳で……「合同演習」や「魔物討伐」の時、いちいち反応していては誤魔化すのが辛い。

 普段浮かぶ事はないが、魔法を使った瞬間絶対に反応する!

 それもあり、今日城で会った時、苛立ちも相まって喧嘩を売る羽目になってしまったのだ。


「……見せつけてやればいいものを」

「あ、ちょ!」


 カイザックは、うっとりと己の刻印を眺め、空いた手の指でソレを「なぞった」。


「ん!」

「素敵ですよ?メリッサ」


 まったくもって、ド変態である。





 翌日の城内。

 今日も騎士団と魔法師団の兵舎を繋ぐ廊下の真ん中では、毎度のバトルが繰り広げられていた。


「やはり、私は城に残りたいと思います!」

「だから、貴女も一緒に同行する指示があるでしょうが!命令違反ですか?副団長ともあろう方が!」

「なっ、違います!騎士団長と魔法師団長にもお伺いはしました!………(哀れんだ目をされましたが)」


 ふぅ、と、溜息をつくカイザック。


「諦めが悪いですねぇ…そんなにお嫌なんですか?」


 その瞬間、見た事もない落ち込んだ表情をするカイザックに、メリッサだけでなく部下(アラン)も驚愕の表情になる。

 今日、部下を連れているのがメリッサだけだったのが救いだろう。

 魔法師団は曲者ぞろい、カイザックがこんな顔をしたなんて知れたら、いい玩具にされてしまう。


「いや、だから……その、だって…」

「僕の「印」を見られるのが…嫌だと?」

「………!カイザック!」

「まぁ、指示を出す時に見られるかもしれませんしね?僕は一向にかまいませんが?」

「カイザック!貴方、何を!」


 ニヤリと笑みを作るカイザックに、真っ赤な顔をして抗議をするメリッサ。


「いいじゃないですか?そろそろ僕も限界でしたし?」

「何を言ってますの!バカなの!」

「「待て」は…得意じゃないんですよ」


 その時、一瞬だがメリッサの口内に浮かぶ「刻印」が目に入ったアラン。

 カイザックの刻印は、彼が魔法を行使する時に嫌と言うほど見ている。


 そして悟ってしまった。


『………なんだよ、単なる痴話喧嘩だったんかい!』


 その瞬間、急にアホらしくなり、アランは騎士団兵舎方面へと回れ右をした。


「………アラン?」

「副団長、馬に蹴られたくないので兵舎に帰ります」

「!!!!!」





 その後、隠す事を止め、遠慮が無くなったカイザックによるメリッサへの態度は凄かった…ある意味凄かった。と言うかヤベー奴だった。


「メリッサ、そんなに「僕」のモノだと主張しなくても…そんなに「印」を見せびらかしたいのですか?」

「………っつ!黙りなさい!!!!」

「あー、ほらほら、次が来ますよ?」

「カイザック!帰ったら覚えてなさい!」

「え?愛を囁いてくれるのですか?」


 バレた…と言うか、バラしたのをいい事に、演習先でメリッサをかまい倒した挙句、同僚や騎士団からはドン引きされていたのだった。


「おい、カイザックって…あんなだったか?」

「まぁ、魔法師団長の甥だしな」

「あぁ…それな」


 ド変態師団長の甥は、やはりド変態と皆が納得した瞬間だった。


「一番の被害者は私ですわ!」

「え?僕に愛されて嬉しい?」

「い、言ってません!」


 「こんなの」に惚れた(惚れられた)のがメリッサの運の尽きである。

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