前編
「こんな簡単な事も理解できませんの?」
「はっ、君こそ僕の話を聞いていたのですか?」
バチバチに睨み合いながら、絶対零度のブリザードと火花を放ちまくる二人。
そんな彼らを見ながら、お互いの部下がいつものように青い顔をしていた。
ここは栄光あるタリア国。
武王とも賢王とも呼ばれる現国王マシュー・タリアが治める大国である。
そして、先程からバチバチと睨み合う二人。
一人はこの国の騎士団副団長「メリッサ・エトワール」。
エトワール侯爵家の長女で、長い艶のある黒髪に赤い瞳の美女だ。文武両道で、部下からの信頼も厚い。
因みに団長は彼女の父親だったりする。
そして、もう一人。
魔法師団副団長「カイザック・ラングリア」。
ラングリア侯爵家の嫡男で、白に近い金髪を持ち、瞳は澄んだ水色。メリッサ同様、文武両道で部下からも信頼されている。
「で、次の合同演習の場所が、何故カルミア山地なんですの!」
「前にも説明しましたよね!貴女の頭の中はどうなっているんですか?」
「なんですって!だいたいあの場所は新人を鍛えるには早いと!以前言いましたわ!貴方こそお忘れなのかしら!」
この二人、騎士団と魔法師団に分かれているとは言え、実は二人とも貴族院を主席で卒業した過去を持つ程、魔法も剣術も得意とするチートな人物達なのだ。
それ故に、お互いのやり方がいちいち気になるらしく、毎度衝突を繰り返している。
「相変わらず…うち(騎士団)の副団長がスマン」
「いや、うち(魔法師団)の副団長こそ…」
そして、毎度こんな調子の為、騎士団と魔法師団の面々は顔を合わす度に謝りあっているのが現状だ。
とは言え、メリッサの言う事も、カイザックの言う事も理解できる。
二人が衝突するのは、自分達の為。
そう言う事もあり、各団員は二人が落ち着く?まで見守るのが日常となっている。
「だいたい、騎士団長は甘いです!新人を育てるのに優しくしていたら前線にまともに立てるのはいつになる事やら!」
「騎士団長は皆の力量を見ながら育てているのです!貴方のとこの団長と違って鬼畜ではありませんから!」
うん、ごもっとも。
メリッサの言葉に、「うんうん」と魔法師団員が頷く。
魔法師団長の「カザル・ノイマン」はハッキリ言ってド変態である。
魔法師は極限を味わってこそ強くなると信じ、常日頃から、己を含む団員全員に無理難題を課している。
そのせいで、毎日のように魔力切れを起こし、救護室に運ばれる者が続出し続けている。
「はっ!ウチの団長が鬼畜?……まぁ、確かに、ではありません!だいたい今回の合同演習は貴女のとこの団長からも許可が出てるんですよ!」
「貴方と私が行くのが条件で、ですわよね!」
「何か問題でも?」
「大アリです!だいたい城の守りが疎かになるではありませんか!それに、許可も何も貴方のとこの団長が押し切った結果ですわ!」
「だから両団長が居残りするんでしょうが!バカなんですか?」
とまぁ、こんな感じな為、二人の言い争いはあと数分続いたのであった。
*
「本当に頭にきますわ!」
プリプリと頬を膨らませながら、城内の廊下をカツカツと歩くメリッサ。
行き先…もとい、帰宅先は騎士団兵舎だ。
「副団長…そろそろ和解したらどうですか?」
そう口を開いたのは、メリッサに次ぐ立場である、副団長補佐の「アラン・カイル」。
茶髪茶目の平凡顔だが、剣に関しては団長と副団長に次ぐ実力の持ち主だ。
「私と…カイザックの事を言っているのですか?」
「はい。だって毎回ですよ?まぁ、合同で動く時はあり得ないくらい息ぴったりですが、普段が…」
そう、この二人、不仲とは言え合同で動くとなると、息ぴったりに動くのだ。
まぁ、騎士と魔法師が仲悪く戦場に立つなんて地獄でしかないのは皆理解している。
魔物などと戦っている最中、連携が破滅的だと隊の運命は死あるのみ。
その為、二人がいくら仲を悪くしていようが、やる事はしっかりやるので普段誰からも「和解したら?」なんて口に出す者はいない。
そう、いないのだが…。
アランはいい加減ウンザリしていた。
元々アランは平和主義なのだ。なので、戦さ場であれだけ連携がとれる程信頼しているなら、普段から仲良くしてもらいたいと常々思っていた。
後、あのやり取りは見ているだけで疲れるし、胃が痛くなる。
「………和解、和解…ですか、考えてみ……無理ですね」
考えながらも返ってきた返答である。
「何がそんなに嫌…と言うか気に食わないんです?容姿端麗、文武両道…部下からも信頼は厚い方ですよ?」
やれやれと溜息を吐きながらメリッサに視線を向ける。
「ボソ…………(そんな事、分かってますわ)」
「はい?」
「何でもありません!とりあえず、性格の不一致ですわ!」