第94話 新たなる地底の門
『新たなる地底の門』
朝のギルドは、喧騒に満ちていた。
冒険者たちの声、装備の金属音、依頼掲示板の前で揉める声。それらを一喝するように、ギルドマスターの重々しい声が響く。
「カール、お前に頼みてぇ仕事がある」
カウンター奥で腕を組みながら座るのは、王都ギルドの長、バルト・グランダス。かつて歴戦の猛者と呼ばれた大男で、今はその鋭い眼差しで街と人を見守っている。
「王都の西にある“グランフォールの森”の奥地で、新たなダンジョンが発見された。周囲の魔力濃度も上昇しており、何かしらの危険存在が眠っている可能性が高い。調査と、必要に応じての制圧を頼みたい」
「新しいダンジョン……了解しました。セリアとリアナを連れて行きます」
カールは即答し、背後にいたセリアとリアナも静かにうなずいた。
「やれやれ、また面倒事ね。けどカールと一緒なら、悪くないわ」
「調査とはいえ、警戒は怠るな。未知の構造というのは、いつだって死と隣り合わせよ」
ギルドを出た三人はすぐに準備を整え、馬車に乗って王都西のグランフォールの森へと向かった。
***
森の奥、苔むした巨岩の裂け目――そこが、今回発見されたダンジョンの入口だった。
「これは……自然の裂け目を中心に形成された、魔力拠点ね。おそらく地下に眠る古代遺跡か、魔物の巣……」
「とにかく、入って確かめるしかないな」
カールが先頭に立ち、リアナとセリアが続く。
ダンジョンの内部は、予想に反して湿った石造りではなかった。そこには、まるで別世界のような広大な森林フロアが広がっていた。
「……地下とは思えないわね、空すら見えるなんて」
セリアが天井を見上げる。高く昇る光の柱、揺れる木々。だが、太陽のような発光体は見えず、これは魔力によって作られた擬似空間だと分かる。
「気配に注意を。空間そのものが生きてるみたい」
リアナが杖を構え、魔力の流れを探る。すると、木陰から一匹の魔物――黒毛の巨大な狼獣が現れ、牙を剥いた。
「来るぞ!」
カールが剣を抜き、セリアとリアナが左右に展開。
セリアの魔剣が一閃し、狼獣を跳ね上げる。続けてリアナが詠唱する。
「《雷槍エリクシオン》!」
轟音と共に雷槍が天から落ち、狼獣を貫いた。戦闘は一瞬で終わり、周囲は再び静寂に包まれた。
「……この程度なら、まだ危険域じゃないわね」
「だが、これはただの門番だろう。奥にはもっと……」
カールが言い終わる前に、森の奥から獣の咆哮が響いた。
数時間の探索の末、三人はようやくフロアの最奥――巨大な古木の根元に穿たれた扉を発見する。魔力の密度が桁違いで、間違いなくボスの間だ。
「いくわよ、準備はいい?」
「ああ、セリア、リアナ。無理はするな」
「無理なんてするつもりはないわ。ただし……勝つわよ、私たちが」
扉が軋みながら開かれた。
中には、巨木のような姿をした魔物――樹人王ドルレアスが待ち構えていた。幹のような腕、無数の枝が舞い、根が大地を這う。
「外敵……排除スル……」
「喋った!? けど、やるしかないわね!」
リアナが詠唱を開始し、セリアが正面から斬り込む。カールはその背を護るように動きながら、樹人王の腕を受け止めた。
「でかいが、遅い……セリア、右脚だ!」
「了解!」
セリアの魔剣が魔力をまとい、地面を這う根を断ち切る。リアナの魔法が重なる。
「《火焔連舞》!」
紅蓮の炎が枝を焼き、動きを鈍らせる。そこへカールが一閃――剣気が真っ直ぐに敵の核へ届いた。
樹人王は断末魔を上げて崩れ落ち、巨大な扉の奥が開かれた。
地下2階への階段が現れる。
「さすがね、カール。相変わらず頼りになるわ」
「リアナの火力もなかなかだった。焦がすならもう少し加減してくれ」
「フフ……悪かったわね、でも燃えるでしょう? 戦いも、私も」
「……冗談か本気か、分からないんだよな」
三人は肩を並べて階段を降りていく。
未知の地下2階、その先に待つものを確かめるために。




