表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第一章 剣聖、黒衣の騎士 カール=キリト誕生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/268

第86話 『真夏の浜辺に誓いの声を ― 夜の花火編 ―』

『真夏の浜辺に誓いの声を ― 夜の花火編 ―』



 日が沈み、海辺は夜の静寂に包まれていた。


 波の音は昼間よりも穏やかで、星の瞬きと月の光が白砂を照らしている。虫の音は遠く、風が髪を撫でるだけの心地よい涼しさがあった。


 その中で、浜辺には小さな灯りの輪ができていた。


「うわぁ~……夜の海もすっごくきれいだね」


 ルゥがふさふさの尻尾を揺らして、きらめく波を見つめる。


「うん。波に映る月が、まるで空にもうひとつ浮かんでるみたい」


 そう呟いたのはセリア。白いワンピースの上に薄手のパーカーを羽織り、頬にそっと風を受けていた。


「ふふ、ほんとに幻想的だわ」


 リアナは手に持っていた提灯をそっと置き、小さな打ち上げ花火を取り出す。


「さぁ、今夜のメインイベント――花火、始めましょう?」


 その声に皆の顔がほころんだ。


「じゃあ、カール! 火、つけて!」


 セリアがはしゃぐように手持ち花火を差し出し、カールは火種を取り出して慎重に火を灯す。


 ジジッ……と音を立てて、細い炎がぱっと広がり、光の粒をまき散らした。


「わぁ……!」


 手元に咲いた光の花に、セリアが目を輝かせた。


「綺麗……。なんだか、こうしてみんなで花火するなんて、本当に夢みたいだな」


 セリアの横でリアナもまた、火花を見つめながらふと口を開いた。


「夢じゃないわよ。現実よ、カール。私たちが一緒に歩んできた現実」


「……そうだな」


「ボクもやるー! ねぇ、リアナ、これどう持つの?」


「はいはい。焦げないように気をつけてね、ルゥ」


 リアナがルゥの手元をそっと取って、手持ち花火を持たせてあげる。ルゥは嬉しそうに尻尾を振りながら、火花の軌跡を空に描いた。


 その後ろから、ひときわ艶やかな笑みが覗く。


「さっすがにこれはロマンチックね~。カール、ひとつ付き合ってもらえる?」


 そう言ってエミリーゼが取り出したのは――線香花火。


「……お前がそれを選ぶとは意外だな。もっと派手なのが好きかと」


「ふふっ、こういうのは“二人で静かに”ってのが、いいのよ」


 エミリーゼがにこりと笑い、隣に腰を下ろした。


 二人並んで火をつける。細い火球が、かすかに揺れながら光を放つ。


「……カールは、こういう時間、好き?」


「そうだな……最近は、こういう静けさのほうが落ち着くようになったかもしれん」


「へぇ、ちょっと大人になったのね?」


「……お前の言う“ちょっと”が怖い」


 エミリーゼは楽しげに笑いながら、火花の終わり際にそっと呟く。


「この花火みたいに、一瞬でも強く光れたら……私はそれで、十分かもしれないわ」


「……」


「なんてね。冗談よ?」


 火が落ちた線香花火が、砂に静かに沈んだ。


 その背後で、ルゥが空を見上げて叫ぶ。


「いくよーーー! 打ち上げ花火、発射ーー!!」


 ひゅるるるっ……と夜空へ舞い上がった火球が、どんっ! と大きな音を立てて、空に赤と金の大輪を咲かせた。


 海面に映る花火が、まるで別世界の光景のように揺れていた。


「きれい……!」


「うん! すごいよ、これ! もっとやろう!」


 打ち上げ花火が次々と夜空に弾け、空を彩っていく。


 その光の下で、カールの隣にそっと座ったのは、セリアだった。


 彼女は膝を抱えて、ちらりとカールを見る。


「カール……少しだけ、このまま一緒にいてくれる?」


「ああ、もちろんだ」


「……ありがとう。今日、すごく楽しかった。こういう日が、ずっと続いたらいいのにって思っちゃうくらいに」


「それなら、願えばいい。虹の貝、見つけたんだろ?」


「……うん。でも、カールが隣にいてくれなきゃ、意味ないんだよ」


 その言葉に、カールは少しだけ目を細めた。


「お前は、もう俺の隣にいるじゃないか」


「そっか……そうだよね……」


 セリアの頬が赤く染まり、波音がふたりの間に静かに流れた。


 その隙間に、ふとルゥが入ってくる。


「ねぇカール。今日って、ほんとに幸せな日だったね」


「そうだな、ルゥ。……俺も、そう思うよ」


 カールはルゥの頭を撫で、獣の毛に指を通した。


 最後の一発が夜空を彩り、すべてが静寂に戻った。


 ――けれど、心には静かな余韻が残っていた。


 誰もが胸に秘めた願いとともに、夏の夜が、やさしく終わっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ