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第9話 冒険者ギルド本部にて

◆冒険者ギルド本部にて◆


 王都ルメリアの中心部、その壮麗な大通りを抜けた先にある建物。それが、帝国最大規模を誇る冒険者ギルド本部だった。


 正面の大扉を開け放つと、喧騒と熱気が一気に押し寄せてくる。剣を携えた冒険者たち、情報を求める商人、依頼を張る文官たちの声が飛び交い、まさに「生きた戦場」のような雰囲気を醸し出していた。


 そんな中、ひとりの男が受付カウンターの前に静かに立つ。


 漆黒のコート、獣革の胸当て、腰には煌めく銀の柄――聖剣ロウ・セリオスを帯びたその姿は、まるで夜の王を思わせる威圧感を放っていた。


「討伐証明と、魔物素材だ。」


 低く抑えた声とともに、男――カールは重たい布袋をカウンターに置いた。受付嬢は目を丸くしながら袋の中を覗き込み、次の瞬間、息を飲んだ。


「ま、まさか……これ……!?」


 青白く光を放つ巨大な魔石。濃縮された魔力の波動は、袋越しであってもギルドの奥まで震わせるほどだった。


「……これ、魔獣王の魔石じゃありませんか!? Sランク級魔獣……こんなもの、一人で!? し、少々お待ちください! ギルドマスターをお呼びします!」


 嬢の声が響いた瞬間、ギルド内のざわめきが一変した。


 無数の視線がカールに集中する。


「あいつが……“黒衣の剣聖”か?」


「信じられん……あの魔獣王を、独りで……」


「どこの国の英雄だ? 見たこともない顔だが……」


 冒険者たちがざわめく中、やがてギルドの奥から重々しい足音が響く。


 現れたのは、銀髪混じりの長髪を後ろで結んだ壮年の男。鋭い目つきに、威厳ある佇まい――ギルドマスター、バルド=グランダスである。


「……お前が、“黒衣の剣聖”か。」


 バルドは鋭く問いかける。だが、カールは表情を崩さず、わずかに口元を緩めた。


「名乗るほどの者じゃないさ。だが……そろそろ名前を返してもらおうと思ってな。」


 ギルドマスターの眉が動く。


「名前……だと?」


 カールは一歩前へと踏み出した。その動作一つに、冒険者たちは息を呑んだ。目の前の男が、ただ者ではないことは、もはや誰の目にも明らかだった。


「元・キリト伯爵家三男、カール=キリトだ。」


 静かに放たれたその言葉は、場を一瞬で凍りつかせた。


 カール=キリト。


 数年前、平民の血を引くことを理由に家を追放され、婚約を破棄され、すべてを失った“落ちこぼれの貴族”。だがその名は、今や“黒衣の剣聖”として、王都の噂にまでなっていた。


 ギルド内の空気が、重く、粘つくように変わる。


「……まさか、本当に……」


「伯爵家を追われたって聞いたけど……信じられん……」


 冒険者たちは戸惑い、驚愕し、そして次第にその姿に畏敬の念を抱き始めていた。


 バルドはしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。


「そうか……ならば、正式な再登録といこうか。“黒衣の剣聖”カール=キリトとしてな。」


 そして、彼は重ねて言った。


「歓迎しよう、剣聖よ。お前がこの世界の秩序を変えるなら……ギルドはそれを見届ける覚悟がある。」


 カールは微笑を浮かべたまま、手を差し出した。


「まずはダンガー子爵を調べてくれ!……腐った貴族を正すために」


 その瞬間、ギルド内にいた誰もが直感した。


 ――この男は、ただの冒険者ではない。


 ――やがて、王都の中心に立つ者だと。


「悪徳ダンガー子爵の情報なら山ほどある」


 バルトは楽しそうに笑みを浮かべた。


「連絡先を教えてくれ」


「南通りにある黄昏の旅人亭に宿泊している」


 カールはそう告げると、ギルドを後にした。

 貴族黒衣の剣聖、カール=キリト。王都ルメリアに、その名が再び響き渡る時が来たのだった。



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