第56話 レーナの娘ティナのひみつ日記
『闇を裂く剣』 ―ティナのひみつ日記―
だいすきなカールおじちゃんのこと、かきます!
わたしがカールおじちゃんにあったのは、すっごくこわい日でした。まっくらな森の中で、おかあさんが「にげて!」っていって、でも足がいたくてうごけなくて――
そのとき、バサッて風がふいて、カールおじちゃんが来たの。
黒いふくをきて、ながい剣をもってて、すごーくこわいおじちゃんかと思ったけど、魔物をバシッ!ってやっつけたあとのカールおじちゃんは、ちっともこわくなかった。
やさしいめで、わたしを見て、「よかった、生きてるな」って言ってくれたんだ。
それから、いっしょに旅をして、いまはルメリアの新しいおうちに住んでるの。カールおじちゃんと、おかあさんと、セリアおねえちゃんと、ルゥもいて、毎日がたのしい!
カールおじちゃんは、いつもおっきな剣をもってるけど、ぜったいにむやみにふらない。やさしい目をしてるし、ちゃんと「ありがとう」と「ごめんね」も言えるの。
わたし、おとうさんってどんな人だったか、あんまりおぼえてない。小さいころにいなくなっちゃったから。でも、カールおじちゃんといっしょにいると、「おとうさんって、こんなかんじなのかな?」って思うときがあるの。
だってね、朝になると「おはよう」って頭をなでてくれるし、おなかがすいたら「食べすぎるなよ」って言ってくれるし、夜ねる前には絵本も読んでくれるの。
あっ! この前なんて、わたしがルゥといっしょに外でころんじゃって、ひざをすりむいちゃったとき、すぐにかけよってきて、「大丈夫か?」ってすっごくしんぱいしてくれたの。
やさしくて、つよくて、いつもみんなをまもってくれて――でもね、ちょっとだけさびしそうなときもあるの。
とくに、だれも見てないと思ってるとき。
おひるねしてるルゥを見てたり、セリアおねえちゃんと話してるのをよこから見てたり、ふとしたときに、すごくとおくを見てる目になる。
そのときのカールおじちゃんの顔は、なんだか「さみしい」ってかんじがして、わたしまできゅーってなるの。
だから、わたし、決めたんだ。
カールおじちゃんがさびしい顔をしないように、いっぱい笑わせてあげようって!
ごはんのときには「おいしい!」って元気に言うし、失敗してもわざとじゃないけど「てへへ~」って笑ってごまかすのも、カールおじちゃんが笑ってくれるから。
このまえ、おかあさんがカールおじちゃんに「プロの料理人みたい」って言われて、ちょっとてれてたの。
でもね、わたしは見てた。おかあさんより先に、カールおじちゃんがわたしのお皿ににんじんを多めに入れてたのを!
うわーん、にんじんきらいー! ……でも、おいしかった。
カールおじちゃんがつくってくれたおうちのなかの、あったかいにおいと、みんなの笑い声といっしょに食べたら、にんじんだって食べられるんだもん。
カールおじちゃん、いつもありがとう。
あのね、わたし、おおきくなったら「カールおじちゃんのおよめさんになる!」って言ったら、おかあさんとセリアおねえちゃんに「それはムリよ」って笑われた。
でも、いいの。
わたしはずーっと、このおうちで、みんなといっしょにいたいの。
カールおじちゃんとルゥと、おかあさんとセリアおねえちゃんと、これからもいっぱい笑って、いっぱいごはん食べて、いっぱい「おかえり」が言えるような毎日にしたいんだ。
あ、でも……もし、また「たたかい」に行くことになったら……
わたし、ちょっとだけがんばって泣かないようにする。
だってカールおじちゃんは、「ひとをまもるために剣をにぎってる」って言ってたから。
だから、わたしも「まもられるだけの子」じゃなくて、「まってる子」になりたい。
いつか「おかえり」って言うときに、いちばんにカールおじちゃんをぎゅーってできるように――わたし、がんばるんだから!




