第5話 黒き森の王
黒き森の王、討たれる日
「……数が増えてきたな」
カールはステータスを確認する。
──
レベル:36
HP:2527
MP:1252
速さ:A
幸運:B
スキル:アイテムボックス/剣聖・黒衣の剣士
称号 魔導国家の王族
カール=キリトは、グレンディアの森の中、血塗られた剣を静かに振り払った。
地に倒れた魔物の屍。それは今日だけで七体目。これまでよりも明らかに、魔物の出現数が増えていた。
「この森、近くに“巣”でもあるか……?」
鋭敏な気配察知能力が、何かを告げていた。
周囲に漂う空気が、かすかに濁っている。風の流れさえ淀んでいた。
——遥か北。
そこに、“それ”はいた。
まるで山のような巨体。四つ足で地を踏みしめるたびに、森が軋む。
黒煙のような瘴気が体から立ち昇り、木々は枯れ、動物は逃げ出す。
その名は、《魔獣王バルグロス》。
「……なるほど、貴様がこの森の異変の元凶か」
カールは森の奥地に踏み込み、その異形と対峙した。
バルグロスの目は、赤く輝きながら彼を見下ろす。そこには明らかに、“知性”が宿っていた。
「人間風情が……この我を狩る気か?」
その声音は地鳴りのようで、森を震わせる。
だが、カールの答えは短く、鋭かった。
「狩るんじゃない。——討つんだよ」
剣を抜いたその瞬間、空気が張り詰めた。
地の魔力が逆流し、風が荒れ狂う。
そして、カールは稲妻のごとく突進した。
バルグロスが咆哮を上げる。
大地を砕くような衝撃波が放たれるが、カールは紙一重でそれを回避。
影のような動きで魔獣王の懐に潜り込んだ。
「——《流星剣技・穿天ノ型》!」
剣が閃光と化し、幾重にも斬撃を重ねる。
その一撃一撃が、バルグロスの硬質な装甲を切り裂き、血飛沫が宙を舞った。
しかし魔獣王は容易く倒れぬ。尾を振るい、地を震わせ、全身から瘴気を爆発させて反撃する。
「グゥオオオオオォッッ!!」
瘴気の奔流が襲いかかる中、カールは剣を構え直した。
瞳が鋭く輝く。
「この一撃で……終わらせる!」
飛び上がったその一閃は、天を裂く斜線の如き斬撃。
真上から振り下ろされたその剣は、魔獣王の額に深々と突き立ち——
バルグロスの巨体が、呻きと共に崩れ落ちた。
森が静まる。
狂ったように騒いでいた魔力の波が、ゆっくりと収束していく。
カールは息を整えながら、バルグロスの胸部を斬り裂いた。
そこには、脈動する《高位魔核》があった。
光を帯びたその核を慎重に取り出し、アイテムボックスへと収める。
「……これで森も、少しは静かになるだろう」
そう呟いた彼の背後に、風が吹き抜ける。
葉の音、鳥のさえずり、そして……静けさ。
魔獣王の死と共に、森の均衡は取り戻された。
だが、その戦いは終わりではなかった。
この出来事を皮切りに、一つの“噂”が、じわじわと近隣の街へと広がり始めたのだ。
——「グレンディアの森に、“黒衣の剣士”が現れた」
——「一人で魔物を狩り続け、魔獣王すら討ち取ったという」
——「剣を抜くと風が止み、斬られた魔物は灰となる」
それは、誰も正体を知らぬ、無名の英雄の伝説。
ギルドに所属せず、報酬も名誉も求めない謎の剣士。
だが彼が持ち込む素材は極めて高品質で、貴族すら目を光らせるほどの品だった。
カール=キリトの名はまだ公に知られてはいない。
だが、いずれこの噂は、王都にも届くだろう。
そしてその日、運命が再び動き出す。
森の小高い丘に立ち、カールは夜空を見上げて剣を掲げた。
「俺を追放したこと……後悔させてやる」
その瞳には、もはや迷いはなかった。
燃えるような覚悟と共に、彼は再び剣を手に取る。
“次”こそは、自分のために。
世界を変えるために。
カール=キリトの逆転劇は、今なお静かに進行していた——。
レベル:41
HP:3275
MP:1652
速さ:S
幸運:A
スキル:アイテムボックス/剣聖・黒衣の剣士
称号 魔導国家の王族 魔獣王を滅する者