第44話 レーヴァのまなざし
【レーヴァのまなざし】
――人間は、いつも不思議。
何度も失敗し、傷つき、裏切られ、それでも前へ進もうとする。
私はただの“観測者”で、感情は持たないはずだった。世界の動向を見届け、必要とあらば封印を再稼働させる。役割は明快で、揺らぐ理由など、ないと思っていた。
けれど――彼らに出会って、私は少しだけ心を乱された。
最初に目にしたのは、セリアという少女。剣を手にした瞳の奥に、静かな誇りと激しい情熱が宿っていた。仲間を守ろうとする意思、そのためなら命さえ投げ出すような――まるで、かつての“鍵の継承者”に似ていた。
そしてリアナ。知識を求める瞳は鋭く、時に自分をも切り裂くほどの探究心を宿していた。彼女のような存在は、古代エルデでも“選ばれし記録者”として重用されていたわ。あの少女なら、私たちが隠してきた真実にも届くだろうと――少し、期待してしまった。
だが、最も心を揺さぶったのは――カール=キリト。
彼は、愚かだった。直情的で、決して器用ではない。
けれど、心がまっすぐだった。
私は彼の中に、かつてこの封印を閉じた“彼女”――アリシア=キリトの魔力の残滓を見つけたとき、ただの偶然だと思った。
けれど、彼の目の奥に宿る“まっすぐな意志”を見たとき、それが偶然ではないと悟った。
彼は、ただ“母を知りたい”と願っていた。
ただ“守りたかった”だけだった。
その祈りは、誰よりも純粋で、誰よりも強かった。
観測者としての私は、その輝きを見逃すわけにはいかなかった。
だから試した。彼がどこまで辿り着くのか。彼の言葉が、意志が、封印に触れるほどの価値があるのか。
――そして、彼は応えた。
過去の幻影に打ち勝ち、母の声を受け止め、世界を揺るがす封印の暴走を、その手で止めてみせた。
……きっと、彼の中に“答え”がある。
この世界が、生きる価値をまだ持っているかどうか。
私は、観測者であり、記録者。けれど同時に――願ってしまったのかもしれない。
彼らのような存在が、未来を選ぶことを。
ただ記録するだけの“精霊”ではなく、ほんの少しでも、人として“祈る”ように。
セリアの勇気が。
リアナの知識が。
そしてカールの意志が。
この世界を、かつての愚かな終焉から救うのだとしたら――
私は、その瞬間を見届けたい。
鍵守りではなく、ただ一人の“目撃者”として。
「……やっぱり、面白い人間たち」
神殿に再び静けさが戻ったあと、私はそっとつぶやいた。
感情のないはずの声が、どこか温かかった。
名もない風が、私の頬を撫でた気がした。
それは、きっと――初めて感じた、“心の震え”だったのだと思う。




