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第41話 最奥の森と金の精霊

【最奥の森と金の精霊】



旅が始まってから、ちょうど二週間が経っていた。


王立魔術学院からの依頼――“古代遺跡の調査と護衛”という名目で始まった任務は、いよいよ終わりを迎えようとしていた。


リアナ=クラウゼは調査の成果をまとめ、魔導具に記録を転写しながら満足げに微笑んでいた。カールとセリアにとっても、それなりに手応えのある旅となった。遺跡の防衛機構との小競り合いはあったが、三人の連携は徐々に息を合わせていき、確かな絆も生まれつつあった。


そんな折だった。


「……あれは、なんだ?」


セリアが立ち止まり、森の奥を指さす。三人の視線が同時に向く先、古びた石造りの建物が木々の合間にひっそりと佇んでいた。苔に覆われ、崩れかけたその建築物は、神殿のような風格を持っていた。


「こんなところに神殿なんて……地図には載ってなかったはずよ」


リアナが目を細める。その顔に浮かんだのは驚きと、抑えきれない好奇心。


「間違いないわ。これは……古代エルデ文明の神殿。もしかすると“鍵の封印地”の一つかも……!」


「おい、待てリアナ。入るな」


先走って神殿へ近づこうとしたリアナの腕を、カールがぴたりと掴んだ。


「なによ、今さら止めないで――」


「……そこにいるのはわかっている。姿を見せろ」


カールの声が森の空気を震わせた。


その直後だった。


風が一陣、神殿の入り口から吹き抜ける。その風の中に、金色の光が舞った。


ふわり、と軽やかに現れた影。それは――少女だった。


背丈はリアナと同じくらい。だが、その存在感は異質だった。腰まで流れる金の髪。白磁のような肌。翡翠のような瞳。そして、彼女のこめかみに伸びた尖った耳が、彼女が人間ではないことを告げていた。


「お兄さんたち、強そうだね」


無邪気に笑うその少女は、まるで遊びに来たかのような口ぶりで三人に声をかけてきた。


「……エルフ?」


セリアが剣に手をかける。


「ただのエルフじゃない。感じるだろ、あの魔力……並じゃないぞ」


カールの言葉に、リアナも頷く。目の前の少女――ただ者ではない。


「名を名乗れ」


「名乗らなきゃ斬るの? 怖いなぁ。まぁいいけど。わたしはレーヴァ=シェルフィン。この神殿の“鍵守り”みたいなものかな」


「鍵守り……?」


リアナが息を呑む。


「ここには、何が封じられているの?」


「それはねぇ……言葉にするのは簡単だけど、知ったら戻れないよ?」


レーヴァはそう言いながら、細い指を鳴らした。


神殿の壁に張り巡らされた蔦が震え、その奥から淡い緑の光が浮かび上がる。古代語で記された魔紋――それは、強力な“封印術式”であり、“召喚式”でもあった。


「これは……封印召喚術式……!? こんな高度なものが、こんな場所に……」


リアナの声が震える。


「そう。ここにはね、“ひとつの意志”が眠っているの。目覚めさせれば、きっと世界が少しだけ面白くなる。あるいは、壊れるかもね?」


レーヴァは笑った。その瞳の奥には、底知れぬ冷たさと、どこか諦めに似た哀しみが宿っていた。


「お前……何者なんだ?」


カールの問いに、レーヴァは一拍置いて言った。


「私は……観察者。そして、ある意志の“代行者”。あなたたちがこの神殿に辿り着いたのも、すべて“流れ”の一部。でもね、あなた――カール=キリト。あなたの魔力、どこか懐かしい」


「懐かしい……?」


「そう。アリシア?に、よく似てる。あの人の剣と魔力……私は、会ったことがあるのよ」


カールの表情が凍る。


「母を、知っているのか……!?」


「ええ。でも、その真実を知るには――扉の向こうに進まなくちゃいけない」


レーヴァが手をかざすと、神殿の扉が微かに震え、封印の魔法陣が浮かび上がる。


「選んで。進むか、戻るか。この先には、祝福と災厄のどちらもある。でも、真実だけは確かにそこにあるわ」


沈黙が降りた。


セリアは剣の柄を握りしめ、リアナは複雑な瞳でカールを見た。


カールは静かに言った。


「……俺は行く。だが、お前たちはここで待って――」


「ふざけないで!」セリアが声を上げた。「あなたが行くなら、私も行くわ。相棒なんだから!」


「もちろん私も行くわ」

リアナも静かに続けた。

「これは私の調査なのよ、最後まで見届ける責任がある」


カールは、二人の覚悟を見つめた。そして、口元に小さく笑みを浮かべる。


「なら、行こう。この先にあるのが、世界の真実なら――俺たちの目で確かめよう」


レーヴァの笑みが深まった。


「いい返事。なら……開けましょう。運命の扉を」


封印が解かれ、神殿の扉が重々しく開いていく。


石の向こう、古代の空気が流れ出す。その先に何が待つのか――まだ誰にも分からない。


だが確かなのは、物語が大きく動き出したということ。


運命の歯車が、音を立てて回り始めたのだった。










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