第31話 黒衣の剣聖と氷の魔女、最初の共闘依頼
《黒衣の剣聖と氷の魔女、最初の共闘依頼》
王都ギルドの掲示板――
日々、多くの冒険者たちが依頼を奪い合うこの場所に、今日もまた活気が溢れていた。
だが、ひときわ異彩を放つ二人がいた。
黒衣の剣聖、カール=キリト。
そして、氷の魔女、セリア=ノルド。
その二人が並んで掲示板の前に立つだけで、周囲の冒険者たちがそっと距離をとる。
「……こっちの『深緑の森・魔獣討伐依頼』、報酬はまずまずだな。時間もかからなさそうだ」
カールがぼそりと呟き、依頼書を手に取る。
「内容は?」
隣で冷ややかな声が返ってくる。
「Aランク相当。最近、森で目撃された魔獣が隊商を襲ってる。どうやら複数体いて、知能も高い。討伐と巣の特定が目的だ」
「ふむ……共闘にはちょうどいい難易度ね」
セリアは静かにうなずき、カールの横に並ぶ。まるで当然のように。
「……なあ、セリア。お前、ずっと一人で行動してたんじゃないのか? いきなり“共に戦いたい”なんて言って、本当に大丈夫か?」
カールの問いに、セリアは少しだけ目を細める。
「確認したいだけよ。あなたの強さも、あなたという存在も……私が信じていいものなのかを」
「ずいぶん遠回しな告白だな」
「……告白ではない」
顔色ひとつ変えずに言い返すセリアを見て、カールは思わず吹き出した。
「ま、いい。この依頼、受けるぞ」
ギルドカウンターに依頼書を差し出すと、受付嬢がぴくりと眉を動かす。
「……キリトさんと、ノルドさんの共闘、ですか?」
「そうだ。問題あるか?」
「い、いえ……ないですが。ふたりとも、破壊力が凄まじいので、現地の森が燃えたり凍ったりしないよう、ご注意くださいね……?」
「言っとけよ。俺は森を燃やす気はない」
「私も、凍らせる予定はないわ。敵が無駄に動かなければ、ね」
受付嬢は乾いた笑いを浮かべつつ、依頼を正式に登録した。
深緑の森――
陽光を遮る大木が並び、濃密な魔力の気配が地を這っている。
「……このあたり、魔獣の痕跡が濃い。最近、ここを縄張りにしたらしいわ」
セリアが木の根元に膝をつき、冷気でわずかに地面を凍らせながら魔力の流れを視る。
「足跡もある。三体……大型の魔獣だな。獣というより、牙の生えた猿に近い形状か」
カールは剣を抜かず、感覚だけで敵の動きを読んでいた。
「……来るわ」
「左から三、前方に一体。囲みに来てるな」
その言葉と同時に、木々の間から影が飛び出した。毛並みの黒い魔獣、鋭い牙をむき出しにし、咆哮とともに襲いかかる。
だが――
「《氷槍・六連》」
セリアが手をかざした瞬間、空気が凍り付き、六本の氷の槍が連なって魔獣の胴体を貫いた。
血の代わりに魔力の霧が吹き出す。
「……速いな。さすが氷の魔女ってとこか」
カールが後方の魔獣に目を向けながら言う。
「……褒めたの? それとも皮肉?」
「両方だ」
背後から襲いかかる魔獣の爪を、カールは一歩踏み込んで避け、流れるように剣を抜く。
鋼のような剣閃が、無言のまま魔獣の首を跳ね飛ばした。
「……あんたの動き、ノルド式に似てる」
セリアがぽつりと呟く。
「母親の血かもな。剣は独学だが、なんとなく身体が覚えてる」
「その“なんとなく”でその精度……やっぱり、普通じゃないわね」
最後の一体が木々の間を駆け抜けて逃げようとした瞬間、二人の視線が交差した。
「……右から回る」
「私は左。挟み撃ちね」
セリアの体が霧のように消え、木々を滑るように移動する。
カールもまた、音もなく森を駆け抜ける。
魔獣が次の一歩を踏み出す前に、二つの刃――剣と氷――が交差し、その命を絶った。
沈黙が訪れる。
「……終わったな」
「ええ。共闘、成功」
ふたりは魔獣の死骸を確認し、巣の位置を地図に記す。
依頼は達成。だが、セリアの心には別の意味で“何か”が刻まれていた。
「カール=キリト。あなたという存在……」
「……まだ、わからないことだらけね」
「それはお互い様だ。だが、悪くない。お前と戦うのは」
セリアは少しだけ、唇の端を上げる。
「……今の、笑った?」
「笑ってないわ」
けれど、それは確かに――氷の仮面の下に浮かぶ、微笑だった。
そして、森の風はどこか優しく二人の間を吹き抜けた。




