第28話 ノルド王国の現在――氷の王座と魔導の闇
《ノルド王国の現在――氷の王座と魔導の闇》
北の果て、永久凍土の上に築かれた魔導国家ノルド。
その中心にそびえるのは、巨大な氷の宮殿〈白銀の塔(シルヴァ=カテドラ)〉。かつては知と魔法の象徴だったその塔も、今ではどこか冷たく閉ざされ、まるで“魔導の墓標”のような威圧感を放っていた。
現在、ノルド王国を治めるのは――第五王子、ユリウス=ノルド。
兄姉たちの粛清を経て玉座に就いた、冷酷無比の若き魔導王である。
彼の治世は、一言で言えば「管理と支配」。
魔導研究は徹底して国家の管理下に置かれ、“有益な魔術師”以外は王都への出入りすら許されない。魔導兵団は増強され、外部との交易も最小限。国全体が、まるで巨大な結界の中に閉じ込められたかのような閉塞感に覆われていた。
そして、最も不穏なのは――“記憶の書庫”の封印解除である。
この書庫には、かつて封印された“禁術”や“失われし魔導兵器”の記録が保管されており、王家ですら容易には触れることのできなかった領域だった。
だがユリウス王は、アリシア=ノルドの失踪とその血筋に関する文書を求め、禁を破ってこれを開いたという。
その結果――
ノルド王国各地では、“正体不明の魔物の出現”や、“精神を蝕む魔法災害”が増加。
古の禁術を操る謎の集団〈白き咎人〉が、影から動き出していた。
かつての魔導国家は、「冷たい理性の塔」から、「闇と狂気を孕む実験場」へと変貌しつつある。
さらに内部では、王家と貴族階級の対立が激化。
ユリウス王の即位に反発する旧派閥――アリシアの家系を支持していた〈氷華の一族〉は、現在地下に潜伏しているとされ、彼らが“失われた姫の血を継ぐ者”を探しているという噂もある。
その渦中に現れたのが、セリア=ノルドである。
“氷の魔女”と呼ばれ、かつてアリシアと同じく忌避された彼女は、追放同然で国を離れたが――今、彼女は決意していた。
「ノルドを、変えるために。
そして……アリシア様の意志を、継ぐために。」
失われた姫の血を引くカール=キリト。
彼の存在は、ノルドにとっては“王家の正統性を覆す危険因子”であり、同時に“希望の鍵”でもある。
いずれ、カールがその血を持って北へ戻ったとき――
氷の王国は、再び大きく揺れ動く。
ノルドの運命は、今、まさに風雲急を告げていた。
 




