第27話 北の魔導王国と“失われた姫”アリシア=ノルド
《北の魔導王国と“失われた姫”アリシア=キリト》
遥か北方。終わらぬ雪と氷が支配する世界の果てに、「ノルド」と呼ばれる魔導国家があった。
この国はかつて、四大魔導国のひとつに数えられ、氷と理の魔法を極めた者たちが集う知の楽園だった。強き者が敬われ、理性が力と同等に価値を持つこの国では、王家とその分家たちが代々、国を治め、魔導の研究と継承を行っていた。
アリシア=ノルド。
それが彼女の本来の名だった。
王家の分家に生まれながら、氷と光を併せ持つ特異な魔力を宿していた少女。銀糸の髪に、澄んだ青の瞳。その姿は“雪の妖精”とも称され、幼くして天才と謳われた。
しかし、彼女はその「光」の魔力ゆえに、王族の中で異端視された。
ノルドでは「理と冷徹」を重んじ、感情と情の魔法――特に“光”の系統は「甘き毒」として忌避されていた。
彼女が生まれたのは、国の内情が荒れ始めた時代。周辺諸国との緊張、王位継承争い、そして内部で蠢く暗殺と陰謀の渦。その中で、アリシアは利用価値のある駒として扱われようとしていた。
十六の年、ある夜のこと。
アリシアは“王族暗殺未遂事件”に巻き込まれる。
彼女が所属する分家の一部が反乱を計画し、王の命を狙った。だが、アリシアはその計画に加担せず、むしろ未然に止めようとした――が、失敗した。
結果、彼女は“共犯者”として追われる立場に。
国を裏切った者、王家の汚点、禁忌の魔力を持つ者――三重の烙印を背負い、アリシアはノルドを脱出する。
真夜中の吹雪の中、たった一人で。
剣とわずかな旅装、
たどり着いたのは、遥か南にある大国リューゲンの王都近郊だった。
身分を偽り、伯爵家の屋敷でメイドとして働きながら、彼女は過去を封印した。ある目的のため準備をしていた。しかし、その美しい容姿から伯爵に見初められ、カールを身籠った。
そして――
「カール=キリト」が生まれる。
氷と光、そして鋼の気配を宿した子。
その幼き瞳を見た瞬間、アリシアは確信した。
――この子が、生きる理由だ。
――この子が、私の全てだ。
だがその幸福は長くは続かなかった。
アリシアは、カールが幼い頃に病で亡くなった。いや、少なくとも“そう伝えられていた”。
だが実際には、その死にも不自然な点が多く、記録も曖昧だったという。まるで、彼女の存在そのものを消すかのように。
なぜアリシアは死ななければならなかったのか。
なぜ彼女は、ノルドを完全に捨てようとしたのか。
それを知る者は、もうほとんどいない。
けれど――
北の国では今なお語られている。
“失われた姫”が遺した血は、いずれ国を変えると。
真に国を救う者は、かつての異端の姫の血を継ぐ者だと。
そして、セリア=ノルドはその伝承を信じ、長い旅路の果てにたどり着いたのだった。
失われた姫の息子――カール=キリトに。
その血が、再び北に流れる時。
氷の国ノルドに、変革の風が吹くだろう。
そして今、その運命の歯車が音を立てて、静かに動き始めた。




