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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第一章 剣聖、黒衣の騎士 カール=キリト誕生編

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第25話 少女の告白

少女の告白


 夕暮れの光が、森の隙間から静かに差し込んでいた。

 戦いの余韻が残るその場に、ふたりは並んで立っていた。

 誰もいない、誰にも見つからない、孤独な場所――けれど、どこか温かな空気がそこにはあった。


 セリア=ノルドは、剣を静かに鞘に収めた。

 その表情には、これまで見せたことのない微かな揺らぎがあった。

 その瞳は、ただ一人の剣士――カール=キリトを映している。


 彼女はゆっくりと、言葉を紡いだ。


「あなたと戦って、心が震えた。」


 その声は震えていなかった。むしろ、これまでのどんな命令口調よりも、まっすぐで、真摯だった。


「私は……“もう一度信じてみたい”と思ったの。人を、想いを、剣を。」


 カールは黙って彼女の言葉を受け止めていた。


 セリアの過去を、カールは知らなかった。

 だが、その剣の軌跡、その目の奥に宿る深い孤独を、剣を交えた瞬間に感じ取っていた。


 彼女はかつて、王族の内乱によって家族を失った。

 ノルド公爵家王の弟――王に連なる名家の一角が、政争の渦中で粛清されたのだ。


 裏切りと血と炎の中で、少女だったセリアは唯一人、生き残った。

 その日を境に、彼女は感情を封じた。泣くことも、笑うことも、誰かを信じることもやめて、生きるためにただ剣を振るってきた。


 そんな彼女が、いま目の前で――はじめて、願いを口にした。


 カールは静かに口を開いた。


「……俺も、お前の剣から“本物”を感じた。」


 それは誉め言葉ではなかった。

 剣士として、命をかけて戦った者同士だけが分かち合える、確かな実感だった。


 セリアは一歩、彼に近づく。


「じゃあ……私を連れていって。」


 その言葉には、迷いがなかった。


「どこへでもいい。地獄でも、あなたが行く場所へ。」


 夕日が彼女の銀髪を照らし、氷のようだった横顔を、どこか柔らかく染めていた。

 それは、誰にも縋らず、誰にも頼らず生きてきた少女が、はじめて差し出した“想い”だった。


 カールは少し目を伏せ、短く息を吐いた。


「……道の先には、何が待っているか分からない。裏切りも、死も、戦いも――お前の過去と変わらないものが、きっとある。」


「それでもいい。」


 セリアははっきりと答える。迷いは、もうどこにもなかった。


「誰も信じられなかった。でも……あなたの剣は、私の心を動かした。」


 彼女は自らの胸に手を当てる。


「ずっと凍っていた心が、あの剣戟の中で、少しだけ……溶けた気がしたの。」


 その言葉に、カールは目を細めた。


 彼自身もまた、すべてを奪われ、信じていたものに裏切られてきた。

 それでも剣を捨てず、信念を持ち続けたのは、誰かにその“在り方”を見てほしかったからだ。


 その“誰か”が、今ここにいる。


「……分かった。なら、ついてこい。」


 短い言葉だった。けれど、その一言が、すべてだった。


 セリアの目が少しだけ潤む。

 けれど、それは悲しみではない。もう、凍てついた涙ではない。


「ありがとう、カール。」


 夕日が完全に沈む前に、ふたりは歩き出した。


 静かな森を、剣を携えて。

 これから待つのは決して楽な道ではない。だが――


 冷たい氷のようだった彼女の心には、確かに“何か”が芽生え、ゆっくりと溶けはじめていた。


 それは、まだ名前のつかない感情。

 けれど確かにあった、始まりの想いだった。

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