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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第135話 その剣に、心を砕かれて》──アレク視点

《その剣に、心を砕かれて》──アレク視点

俺は負けた。


身体が地面に沈んでいく感覚と、血の味、そして何よりも——心が、剣に打ち砕かれた。


「……やられたな、カール」


苦笑しながら、そうつぶやいた。


天を割るほどの一閃だった。空気を切り裂き、俺の最後の一撃を断ち、己の限界を超えて放たれたあの剣撃。


戦いながら、何度も思った。こいつはただの剣士じゃない、と。



大伝統武術大会。

俺がここに来たのは、魔王国の《死霊の王》としての名誉をかけてのことだった。


多くの仲間の想い、魔王である父の信頼、そして何より——俺自身の誇りを、全てこの右拳に込めてきた。


拳と雷をまとい、どんな敵も叩き伏せてきた俺の力は、決して伊達ではない。

精鋭部隊の団長であるエリックやピエールたちにも、常に一目置かれていた。


だから、準決勝までに俺をまともに苦しめた者はいなかった。

けれど——決勝で待っていた相手、カール=キリトだけは、違った。


初めてあいつと剣を交えた瞬間、俺は理解した。


「こいつ、"真っ直ぐすぎる"」


その剣筋に迷いはない。だが同時に、愚直なほどに純粋だった。


何のために戦うのか、誰のために立つのか。

その答えを、カールはきっと胸の奥で確かに抱いている。


俺の拳が雷をまとうたび、カールの剣が光を返す。


一瞬の交錯、一歩ごとのぶつかり合い、その全てが——楽しかった。


楽しい、なんて言葉を、俺はこの戦いの中で思い出したんだ。



正直、途中で勝利を確信しかけた場面もあった。


カールの左足が鈍り始め、呼吸が荒くなり、俺の雷鳴拳が何度も肩や脇をとらえていた。


だが——そこから、やつは折れなかった。


目が死ななかった。


何度吹き飛ばしても、何度血を流しても、その瞳の輝きは失われなかった。


それどころか、戦うごとに磨かれていくような、そんな剣気を放っていた。


「馬鹿みたいな奴だ……!」


俺は怒鳴るように言ったが、その実、心の奥では笑っていた。


この時代に、こんな奴がいたのかって。


誰かのために、全てを背負って立つことができる奴。

自分を犠牲にしてでも、大切な人たちを守り抜こうとする剣士。


そして最後——


「絶閃・零ノ型・空閃」


その名を叫ぶ声が、会場中に響いたとき、俺の鼓動は止まるほど高鳴った。


空を裂く閃光が、雷すら切り裂いた瞬間。


俺の拳は、その先の未来に届かなかった。



気づけば、倒れていた。


痛みはあったが、心は妙に澄み渡っていた。


勝ちたかった。いや、本気で勝つつもりだった。


でも今は、負けを受け入れられる。


それほどまでに、カールの剣はまっすぐで、強かった。


誰かの期待に応えるためでも、魔族の威厳を示すためでもない。

ただ、自分自身の「誇り」のために、あいつは戦っていた。


そしてその「誇り」に、俺は心ごとぶっ叩かれた。


清々しい負け方って、あるんだな……と、負け犬らしく笑ってしまった。



ふと、誰かが近づいてきた。


「アレク……!」


見れば、ピエールだった。頭には包帯。あの精鋭戦の負傷がまだ癒えていない。


「大丈夫か!? 応急処置を——」


「平気だ。……ちょっと、心をやられただけだ」


俺がそう言うと、ピエールは苦笑して、そっと肩を貸してくれた。


隣にはエリック。真っ赤な顔で腕組みしている。


「全力で戦ったなら、それでいい。あの剣士、俺も見ていて震えた」


「へぇ、赤鬼のくせに優しいこと言うな」


「うるせぇ、負け犬」


その言葉に、俺は初めて、声に出して笑った。


ああ、こいつらがいてくれて、俺は救われてるんだな。



その後、観客席の方に目をやると、あいつの仲間たちが泣いたり、笑ったり、飛び跳ねたりしているのが見えた。


ルゥっていう子犬も、嬉しそうにカールに飛びついてる。


……羨ましい、と思った。


でも、それだけじゃない。


ああいう仲間に囲まれてるからこそ、あいつはあそこまで強くなれたんだろうな。


剣は、人の心を映す。


そして——あいつの剣は、人の心を動かす。


俺はもう、あいつを見て嫉妬しない。


これからは、一剣士として、あいつに背中を追わせてもらう。


「またどこかで……戦えたら、いいな」


雷鳴の誇りにかけて、次こそは、あいつに届く一撃を放ってみせる。


これは終わりじゃない。

剣士としての、俺の第二章の始まりだ。


さあ、立とう。

負けはしたが、心までは折れていない。


——雷の誇りと共に、俺は歩き出す。

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