第127話 決勝戦、静かな剣戟の前奏
静かな剣戟の前奏
決戦当日。巨大な闘技場は開会時とは打って変わって厳粛な空気に包まれていた。観客席は総立ち。二人の戦士がそれぞれの入場門をくぐると、拍手が万雷のように轟き、しかしすぐに静寂が戻る。
登場の対比
—アレクサンダー=アーデン=アウリ
銀と黒の重厚な鎧に身を包み、二本の大剣を背負う“死霊の王”。金髪は風に揺れ、その冷たい青い双眸には歪みのない覚悟が宿っている。左腕の《煌獄竜》の紋章が淡く光り、彼が今や“王”としての器に近い存在であることを示す。彼がゆっくりと歩を進めるだけで、空間が冷気を帯びるようだった。
—カール=キリト
銀髪の剣聖。大剣を携え、右手の甲にはウロボロスの契約紋が淡く輝いている。傍らにはセリア=ルゼリア=ノルド(白銀の聖女)、リーリアン=フリーソウ(紅翼の魔族)が控えており、カールの盾となる空気が自然と漂っている。彼の息遣いは静かだが、確かに心臓が高鳴っていた。
試合開始の合図
審判の声がフィールドに響く。
「――決勝戦、開始!!」
空気が弾ける。二人はほぼ同時に剣を抜き放った。
——刹那。
一瞬、世界が止まったように見えた。剣と剣がぶつかり、火花が飛ぶ。力と意志がぶつかる音が、観客の耳にも直接届く。
一撃交わされる速度
第一合:静かなるぶつかり合い
アレクの剣撃は鈍らず、しかし突進というより「試す一閃」だった。
カールはそれを見逃さず、清流のように剣をかわし、反撃を入れる。その斬撃は風を裂き、だがアレクの防御によって静かに弾かれた。
その瞬間、二人の身体の中で何かが弾けた——
カール:その動きには“鍛錬”と“契約”による精度が滲み、驚くべき切れ味を放っていた。
アレク:竜の紋章が淡く輝き、彼が魔力と武闘の融合体であることを示している。
観客席からは「おお…!」という驚嘆と、静かなる喚声が漏れた。
軽くいなすカール、重厚に押すアレク
二合目…。
アレクが剣を横薙ぎに振るう。それはただの物理攻撃でなく、魔炎を纏った重みがある。
一方、カールは軽やかに身をかわし、剣先だけで切り返すその見事さに、観客は息をのんだ。
「——速い…正確だ…」と誰かが呟く。
三合目…。
カールが流れるように踏み込み、剣をアレクの間合いへと運ぶ。
対するアレクはバランスを崩さず、逆に剣先を受け止めて弾く。
しかし、その僅かな衝撃が、会場に触れた衝撃波のように伝わっていた。
視線の溶解
二人の視線がぶつかる。
その刹那、時間がゆっくりと動いたように感じられた。
——アレクは一瞬、微笑んだ。
——カールも僅かに口角を上げた。
その微笑の奥にあったのは「認め合う強者同士の理解」だ。
観客席では「おお…」と唸る声が湧いた。
一瞬の乱気流
その次の一撃で、風が螺旋を描き、砂埃が舞い上がる。
──アレクの剣撃がいたずらにリングの地面を抉り、カールはそれを跳躍でかわす。
セリアが魔法円を広げ、光の花弁が風に舞ってカールを囲む。
「プロテクティア!」
六芒星の光がカールの背を守る。
——しかし、アレクの攻撃はそこまで届かなかったが、徐々に際限なく攻撃は磨かれつつあるのを感じられた。




