表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/268

第126話 《聖女アウラーン》視点:私は裏切ったのではなく――

大伝統武術大会・準決勝第二試合

《聖女アウラーン》視点:私は裏切ったのではなく――


 聖女として、ここに立つことができる自分を、誇らしいと思っていた。

 魔王陛下に仕え、赤鬼エリック、青鬼ピエールと共に数え切れぬ戦場を駆け抜けてきた日々は、私にとってかけがえのない誇りだった。

 けれど――今、この大伝統武術大会の準決勝の舞台に立ち、あの少年を見るとき、心の奥に沈めてきた迷いが、再び胸を突く。


 銀の髪、まっすぐな瞳。そして背負うのは、時代を変える刃。

 《カール=キリト》。

 ただの若者ではない。彼の剣は、人々を導く光にもなりうる。私には、それが見える。感じられる。


 だから私は、決めていた。今日、この場で――私は私の意志で未来を選ぶ。


◆ ◆ ◆


 試合開始の号令と同時に、空気が変わった。

 カールが放った初撃、《絶閃・白銀》――あれは斬撃ではない。信念そのものだ。

 その一閃で、エリックの巨剣が宙を舞ったのを見た瞬間、私は悟った。


 「……やはり、来るべき者だったのね」


 セリアの守護術が、ピエールの魔法を跳ね返したときも。

 リーリアンの紅の魔矢が、ピエールを貫いたときも。

 私はただ、静かに見守っていた。


 そして、私の名が呼ばれた。


 「アウラーン! 癒しを……!」


 エリックの叫び。それは当然の声だった。仲間として、幾度も支え合ってきた私を頼るのは当然のこと。

 けれど、私は――その声に応えられなかった。


 「《聖光癒壊・ルミエール》」


 癒しの術を装い、私は光を放つ。けれどその光は、彼らを回復するものではない。

 戦いを終わらせるための、希望の光。


 「……なぜだ?」

 エリックが低く問いかける。


 私は、まっすぐに彼の目を見る。答えなければならない。ここに立つ理由を。


 「彼らは、正しき刃よ。腐った秩序を切り裂く、未来の剣」

 「私はそれを止めることができない。……いいえ、止めたくないの」


 私は、魔王軍に忠誠を誓ってきた。だがその忠誠とは、個にではなく“国”に向けられたもの。

 今の魔王軍は、その理想を見失っている。

 人間との対立を続け、力で抑えつける政治。

 けれど、カールの剣は違った。彼は剣を振るいながらも、誰かを救おうとしている。

 戦うたびに、人を結びつけていくその姿は、まさに真なる英雄。――そして、未来の希望。


 「私は……聖女。真なる未来に、手を添える者」


 私は裏切ったのではない。忠義を尽くしたのだ。

 真の王とは、真の時代とは――誰かが斬り拓かなければならない。

 そしてその役目が、あの銀髪の少年にあるならば――私は、聖女としてその道を照らす。


◆ ◆ ◆


 「アウラーン……てめぇ……!」


 エリックの怒りがぶつけられる。だがその中には、理解の兆しもあった。

 彼はただの脳筋ではない。何度も命を預け合った仲間だからこそ、わかる。

 彼は怒りと、そして戸惑いの中で、それでもなお信じようとしている。


 「赤鬼、あなたが守ろうとする“秩序”は、もう終わってるのよ」

 「今は、新たな秩序が必要なの。それを切り拓くのが、あの剣聖……カール=キリト」


 私は、背後から彼を支える白銀の聖女セリア、紅翼の魔族リーリアンを見る。

 彼女たちもまた、“今”ではなく“未来”のために戦っている。


 そして、その中心に立つカールが剣を抜いた。


 「――終わらせる」


 ああ、なんと澄んだ声だろう。


 燃え上がる炎の中、エリックが叫ぶ。


 「来いやああああああ!!」


 だが――それでも届かない。


 《絶閃・銀界》


 その斬撃は、炎も怒りも、過去も未来も、すべてを断ち切った。

 時間すら止まったような沈黙のあと、ゆっくりと、エリックの身体が倒れ込む。


 「……完敗だ」


 その言葉には、悔しさよりもむしろ、希望があった。

 彼は知っていたのだ。私が裏切ったのではないと。

 私が、“選んだ”のだと。


◆ ◆ ◆


 勝者――カール=キリト、セリア=ルゼリア=ノルド、リーリアン=フリーソウ。


 観客席からは割れんばかりの歓声が上がっていた。

 私たち魔王軍精鋭部隊は、敗北した。けれど、それは“終わり”ではない。

 むしろ――ここから“始まる”のだ。


 私は、誓う。


 この選択が、ただの感情や衝動ではなかったことを、未来に証明してみせる。

 聖女として、私の忠誠は今も変わっていない。

 ただ、その矛先が変わっただけ。


 “国”とは、“人”とは、変わっていくもの。

 そして私は、変わりゆく未来に祈りを捧げる者。

 だからこそ――アレクサンダー様が魔王になった時の未来を止めなければならない。それには、未来を託せる、リーリアン様、そして、カール=キリトの力が必要だ。

 ならば、わたしは、彼らに勝ちを譲り、彼らに余力を与えなければならない。


 「これが、私の正義」

 

 私はそっと目を閉じ、心からそう呟いた。魔族と人間の平和と共存のために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ