第124話 準決勝第二試合 《剣聖カール》 vs 《現魔王軍精鋭部隊》
大伝統武術大会・準決勝第二試合
《剣聖カール》 vs 《現魔王軍精鋭部隊》
――試合開始五分前。
観客席は異様な熱気に包まれていた。ついに来たのだ。魔王軍の三幹部に対し、銀髪の剣聖《カール=キリト》が挑むという、夢のような組み合わせが。
「さすがに、今回は相手が悪いんじゃないか?」
「いや、あのカールなら……いやでも、相手はあの赤鬼だぞ……!」
期待と不安、そして興奮が入り混じる中、会場が静まり返る。
「――入場!」
最初に現れたのは、赤き炎をまとった男。《赤鬼》エリック。肩に担がれた巨剣が地面に火花を散らす。
続いて、冷気をまとった長身の魔術師、《青鬼》ピエール。最後に現れたのは、白き法衣に身を包んだ聖女、《アウラーン》。どれも、魔王軍の頂点に立つ名実ともに最強の三人。
そしてもう一方。
「来た……!」
リングに現れたのは、銀の髪をなびかせ、静かに歩を進める少年。背には漆黒の刀身を持つ魔剣。そしてその右手の甲には、淡く光るウロボロスの契約紋。
《銀髪の剣聖》カール=キリト。
その背後から二人の少女が並ぶ。一人は白銀の魔法陣とともに舞い降りた《白銀の聖女》セリア。もう一人は、紅い魔力の光翼を輝かせながら舞う、《紅翼の魔族》リーリアン。
「では、準決勝第二試合――開始!!」
審判の号令が下ると同時に、魔力の奔流が空間を満たす。
「――《絶閃・白銀》」
誰よりも早く動いたのはカールだった。
風すら斬るその一閃。瞬間移動にも等しい速度で駆け抜けた彼の斬撃が、エリックの大剣を宙に弾き飛ばした。
「なっ……!?」
エリックの瞳が揺れる。まさか、一撃で武器を奪われるとは。
「つまらない……その程度か」
カールが冷たく言い放った。
「ちっ、ならばこちらも本気で――!」
ピエールが魔術を詠唱する。しかし、詠唱が終わるより早く、セリアがその前に立ちふさがった。
「《白銀の守護術・プロテクティア》!」
六芒星の魔法陣が足元に広がり、銀の光の壁が広がっていく。ピエールの氷魔法は全て弾かれ、逆に氷が自分に向かって跳ね返る。
「うそだろ……反射……!?」
「私の守りは、ただの障壁じゃないの」
優しく微笑むセリアの足元には、光の花が咲いていた。
「っ、このっ……!」
苛立つピエールの後方、空から急降下する紅の閃光が突き刺さった。
「《契血の矢・ブラッド・ピアース》!」
リーリアンが放った血の魔弾がピエールの肩を貫き、彼は仰向けに吹き飛ぶ。
「ぐはっ……!」
「油断したわね、青鬼さん♪」
リーリアンの六枚の紅翼が音を立ててはためく。魔族として覚醒した彼女の力は、今や聖女や鬼と並ぶか、それ以上。
「くっ……アウラーン、癒しを……!」
エリックが叫ぶが、その声に答えるように、彼女は光を放つ。
「《聖光癒壊・ルミエール》!」
しかし、それは回復の術ではなかった。リングの天井から降り注ぐ光は――攻撃の光。
「……なぜだ?」
「彼らは、正しき刃。その未来を切り拓こうとしている。私は、それを止めたくない」
アウラーンが微笑む。
「私は……聖女。真なる未来に、手を添える者……」
彼女の光は魔王軍を癒すのではなく、カールたちに加勢するための力へと変わっていた。
「アウラーン……てめぇ……!」
「赤鬼、あなたが守ろうとする“秩序”は、もうとっくに終わっているのよ」
その瞬間――カールが再び剣を抜く。
「――終わらせる」
「来いやああああああ!!」
エリックが炎の拳を振るう。だが、届かない。
カールの剣は、その全てを超えていた。
《絶閃・銀界》
閃光が走る。時間すら斬り裂いたような静寂が訪れたあと、エリックの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「……完敗だ」
彼の口から出たのは、悔しさではなく、清々しさすら含んだ言葉だった。
ピエールもアウラーンも、すでに行動不能。
「勝者――カール=キリト、セリア=ルゼリア=ノルド、リーリアン=フリーソウ!」
審判の叫びと同時に、会場は爆発的な歓声に包まれる。
「さすが……銀髪の剣聖……!」
「まさか、ここまで圧倒するなんて……!」
現魔王軍、完膚なきまでの敗北。
カールの剣は、まるで未来を切り拓くかのように、迷いなく振るわれていた。




