第119話 ベスト八、第四試合《水竜の巫女》対《現魔王軍精鋭》
大伝統武術大会・第四試合《水竜の巫女》対《現魔王軍精鋭》
ベスト8最後の試合。灼熱の砂漠戦も、雷鳴の激突も、すでに観客の記憶に深く刻まれた。そして今、全会場が静まり返る。空気が一変する。
「これより、第四試合――!」
実況の声が響く。リングに現れたのは、ひとりの少女。透き通るような蒼衣に身を包み、背には水紋の刻まれた巫女杖。その名は《水竜の巫女・ナリア》。
「ようこそ……水と共に、踊ってくださいね」
彼女の声は涼やかに、しかし不思議な圧を伴って響いた。
対するは――現魔王軍最強と謳われる精鋭部隊。
「赤鬼、参る」
堂々とリングに立つは、真紅の大剣を肩に担いだ豪胆な男、現魔王軍騎士団長《赤鬼のエリック》。
「ピエール様、私の背中、任せてよろしいかしら?」
続いて現れたのは、純白の法衣をまとった長身の美女。清らかな微笑を浮かべる現魔王軍の聖女。
「ふん、そいつの水龍とやら、実験にはちょうどいい」
最後に現れたのは、青い魔術服を着た陰気な男、魔術師団長《青鬼のピエール》。一歩一歩、地を這うような気配が観客席にまで伝わる。
「……これは……大本命だ……!」
会場がざわつく。現魔王軍の中枢にいる三人が直々に出てくるなど、百年ぶりとも言われていた。
試合開始の号令が鳴る。
「始めましょう、水よ――」
ナリアが両手を天へと掲げる。その瞬間、会場の空気が変わった。
「《蒼界召喚・水竜ヴァーグ=ルアン》!」
水が渦を巻き、リングの中心から巨大な竜の姿が現れる。青白く透明な鱗、流れるような尾。水で編まれたその身は、まさに神話の存在だった。
「くっはは! いいじゃねえか!」
エリックが大剣を構え、一気に突進する。その一撃は、竜の首を狙った直撃。しかし――
「甘い」
ピシャッと水の鱗が裂けたように見えたが、直後、反撃の水流が発生し、エリックの身体が後方へ吹き飛ばされる。
「っぐ、くそ、水の防御と反撃……!」
「後退しなさい、赤鬼」
アウラーンが手をかざすと、彼女の周囲に淡い金の光が満ちた。《浄化の結界》。ナリアの水魔力を緩やかに打ち消し、場の流れを変え始める。
「次は私の番か」
ピエールが、冷たく笑った。
「《氷蒼融合術・虚水殻》――」
彼の魔術が発動すると、ナリアの水龍の表面が凍り始めた。水と氷を相反させ、魔力の流れを断つ禁術。
「……! まさか、水そのものを……!」
ナリアが焦りを見せた瞬間、再びエリックが動いた。
「今だッ!」
《赤鬼連牙斬》! 赤い剣気が水龍の凍った部分に連続して突き刺さる。
ゴゴゴッ……!
水龍が大きくのけぞり、ひときわ大きな咆哮を上げて爆ぜる。
「ふっ、ようやく手応えがあったな」
「……このままでは、いけませんね」
ナリアが最後の力を振り絞り、杖を強く握った。
「《深海の加護・双頭竜覚醒》!」
爆風がリングを包む。水龍の残骸から、今度は二体の龍が生まれた。水流の咆哮とともに、観客席が沸騰する。
「二体だと……!?」
「どっちか一体ずつ、対応する。アウラーン、後方支援を」
「ええ。二人を光で守ります」
青い龍がピエールに、白い龍がエリックに襲い掛かる。水流の刃が交錯し、氷と火花が乱舞する。
「たのしいなァ!」
エリックは炎をまとった大剣を振るい、白龍を真正面から打ち砕いた。
「まだまだっ!」
青鬼ピエールも魔導具を砕き、氷雷の術式を青龍に放つ。《氷電・雷鳴の咆哮》!
「ギィイイィィィッ!」
青龍の身体が痺れ、崩れていく。立て続けに、アウラーンの祈りが放たれる。
「《聖光癒壊・ルミエール》」
清らかな光が水龍の核へと突き刺さり――ついに、すべての水竜が蒸発した。
「……もう、立ち上がれない」
ナリアが膝をついた。彼女の瞳には涙ではなく、清らかな満足が宿っていた。
「見事だった、水竜の巫女」
エリックが手を差し出す。ナリアは少し笑って、その手を取った。
「勝者――現魔王軍チーム!!」
大歓声が巻き起こる。
――かくして、ベスト4のすべてが出そろった。
・アレクサンダー=アーデン=アウリ(第一王子)
・ルクス=ゴールデン(黄金幻術使い)
・カール=キリト(銀髪の剣聖)
・現魔王軍精鋭部隊(赤鬼・青鬼・聖女)
次なる激戦は、もう目の前だ。




