第116話 ベスト八、第三試合、ルクス=ゴールデン VS 砂漠の黒影団
第三試合・激突!《幻影》対《幻術》
大伝統武術大会、熱狂と興奮の渦巻く会場。ベスト8、第三試合――。
「さぁあああっ! 続く試合は、南方砂漠からやってきた謎多き刺客、《砂漠の黒影団》! そして迎え撃つは、ガンダーン魔王国が誇る黄金の貴公子、ルクス=ゴールデン!!なお、この戦いは両チームの合意により、3人対3人が同時に戦うことになりました」
実況の声が響き渡ると同時に、観客席からは熱い声援が飛び交った。
「きらっきらですね、ルクス様っ! 今日はバッチリ決めましょうっ!」
従者のカグヤが、ルクスの背中に声をかけた。ピンクの髪が揺れ、彼女の瞳は期待にきらめいている。
「静かに、カグヤ。ルクス様は集中されている」
無口な従者・ゴウダが短く言い放ち、彼らはリングへと歩を進める。
《砂漠の黒影団》――それは幻術を極めた戦闘集団。黒いターバンに砂色のローブを纏い、すべての戦士が同じ姿をしていた。
「……数だけなら、圧倒的に向こうが多いが……」
ルクスは目を細め、リング上の敵を数えた。
「偽物を混ぜてるはずです。すでに幻術が始動していますね」
カグヤが鋭く言う。
「私が先行する。お前たちはその後ろを頼む」
「了解ですっ!」
試合開始の号令とともに、戦場を取り巻く空気が一変した。
――視界が、消える。
「これは……」
観客席がどよめく。リングが、まるで砂嵐に包まれたかのように歪み、ルクスたちの姿が見えなくなったのだ。
実況席からも悲鳴が上がる。
「出たあっ! 《砂漠の黒影団》の必殺幻術、《黒砂の幻界》です!!」
すべての感覚が狂わされる。目も、耳も、空気の流れさえも。
「ルクス様、目が……!」
「問題ない」
ルクスは静かに目を閉じ――そして、開いた。
「《黄金眼・開放》」
黄金の角が光を放ち、それと連動するように彼の瞳が燃える。空間に散る幻術の“ヒズミ”を、光の線として可視化する能力。幻の境界が、彼には見えていた。
「右前、三番目。次、後方に回る」
「任せてくださいっ!」
カグヤの手に現れたのは光の破片。幻を裂く術式《鏡乱衝》が炸裂し、黒影団の幻術士を直撃した。
「グッ……! 何故見える……!?」
「……見えているのではない。視ているのです」
ルクスは剣を抜き放ち、目の前に現れた敵を一刀のもとに切り裂いた。《黄金閃刃》――幻を斬り裂く特化の技だ。
「……一人、消しました」
「次、六番目。カグヤ、援護」
しかし黒影団もただの幻術士ではない。攻撃の範囲はすでにルクスたちを包囲し、リング全体が幻影の“砂漠”へと変貌していた。
「本気で来ましたね……!」
ルクスの背に冷たい汗が流れる。黒影団が放ったのは、感覚干渉による全感覚操作型の上級幻術――《砂渦・断界陣》。
「くっ……ま、前が……!」
カグヤが片膝をつく。視覚・聴覚・触覚……あらゆる“信じるべき現実”が、狂っていく。
「これが……これが俺たち《砂漠の黒影団》の奥義だ」
リーダー格の男が砂の幻から現れ、ルクスへと迫る。
――その瞬間、光が弾けた。
「《影脚》」
ゴウダの影が伸び、突如として敵の足元から蹴撃が飛び出す。だがその一撃すら、幻の迷宮にかき消されそうになる。
「――まだだッ!」
カグヤが、震える手で前に出る。
「ルクス様は、私が守りますっ!」
その身を盾にし、彼女は一撃を受け止めた。
「カグヤ!」
「……今です……ルクス様……」
「……ありがとう」
ルクスは剣を構え直し、幻の中心へ踏み込んだ。
「《黄金裂閃》!!」
黄金の閃光が幻の空間を貫く。視覚を奪い、聴覚を破壊し、あらゆる“偽り”を一刀で切り裂いた。
黒影団の術式が、音を立てて崩れていく。
最後に残ったリーダーが、崩れ落ちるように地面に膝をついた。
「なぜだ……幻が……見破られる……!」
「見破ったわけではありません。信じるものを選んだだけです」
静かに、剣を納めるルクス。
勝者の名前が、場内に響き渡る。
「第三試合、勝者――ルクス=ゴールデン!!」
観客席が沸騰した。だが、その中でルクスは静かに呟いた。
(カール殿……この戦いを、どう見ておられましたか)
戦場の外。白銀の髪をなびかせる剣聖が、静かにその試合を見つめていた。




