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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第115話 死霊の王と魔王の再会

《滅びの誓い ― アレクサンダーと魔王ガンダーンの再会》

 暗く冷たい風が吹く魔王城の高塔。

 天を突くようにそびえるその頂、黒曜石の間に、今ふたたび封印を解かれた男が現れる。


 アレクサンダー=アーデン=アウリ。


 かつて“王国の希望”と称され、民に愛され、未来を夢見た王子。

 だが今、その青き瞳に宿るのは、かつての優しさではない。

 復讐と決意の、凍てつく光。


 玉座の間の扉が開いた瞬間、冷気が走る。


 「……久しいな、父上」


 静かに、しかし確かな威圧を孕んだ声が響いた。


 玉座に座る老王――ガンダーンは、その声に目を細める。


 「十年ぶりか……いや、もっと長く感じるな」


 アレクはゆっくりと歩みを進め、玉座の前で足を止めた。


 「大会に出場した理由、わかっておられるだろう」


 「聞こう」


 魔王ガンダーンの声には、かつての威厳と、今は混じり合った苦悩があった。


 アレクはその視線を正面から受け止めた。


 「この大会で、俺が優勝したなら……魔王の座を奪い取る。そして、人間界へ宣戦布告をする」


 その一言に、空気が張り詰めた。


 「……その口で、まだ“滅び”を語るのか」


 「滅びではない。正義だ」


 即答だった。


 「俺は、世界を欺く“幻想”に騙された。信じた者に裏切られ、守ろうとした者を奪われた。理想など、弱者の逃げ場でしかない」


 「ニーアンの件か……」


 ガンダーンの声に、アレクの瞳が鋭く光る。


 「人間を信じた結果、彼女は昏睡状態に陥り、俺は希望を失った。あの夜、俺の中のすべてが壊れた。人間と魔族が手を取り合う未来など、存在しない」


 「……お前は、あの時と変わらぬ。怒りに囚われ、過去に縛られたままだ」


 「なら、問おう。俺の理想が間違っていたと? ニーアンが人間を助けたことが、罪だったと? ……俺が信じた“世界”が、ただの幻想だったと、認めろ」


 魔王ガンダーンは深く息を吐いた。


 「それでも、殺し尽くす理由にはならぬ。アレク、お前は——」


 「アウリ、だ」


 その言葉に、魔王ガンダーンの目が揺れた。


 「俺はもう、“ガンダーン”の名を名乗る資格はない。お前がそう決めたのだ。ならば、その名は勝ち取る。大会で勝ち、世界を変えるに足る力を持つ者として、堂々とだ」


 静寂が広がる。


 その隙間を縫うように、アレクは続けた。


 「だが、俺にはひとつの誓いがある。……カール=キリト。あの剣聖を倒せなければ、俺の理想も、復讐も、絵空事だ」


 魔王ガンダーンは目を細めた。


 「倒せなければ、どうするつもりだ」


 「諦める。潔く、すべてを捨てよう。俺の誓いは、彼を超えられるだけの力があるかどうかで決まる」


 まるで、自分を試すかのように。

 否、これは世界に問う“最終審判”だった。


 「お前がそんなにも変わってしまったとは……」


 ガンダーンの声には、かすかに哀しみが混じっていた。


 「ニーアンが今も目覚めていたら、何と言っただろうな」


 アレクの足が止まり、拳が震えた。


 「……わかっている。俺がどれだけ歪んだか、狂っているか。だが、彼女の眠りを終わらせる方法は、もう……これしかないんだ」


 「世界を滅ぼすことで、彼女が目覚めると思っているのか?」


 「違う。俺が勝ち、世界を支配し、彼女の安らげる世界を創る。それが、俺のたどり着いた答えだ」


 ガンダーンはしばし言葉を失った。

 かつて誠実で、民の声に耳を傾けたあの少年が、今や“滅び”を口にしている。


 だが同時に——


 「……やはり、お前は強い」


 その声は、皮肉でも嘆きでもなく、ただの事実として告げられた。


 「その力が、本物かどうか……カール=キリトが証明するだろう。父として、魔王として、私は何もせぬ。見届けよう、お前の結末を」


 「それでいい」


 アレクは背を向け、扉の方へと歩き出す。


 「すべては、剣で決まる」


 そして、その背に向けて、魔王ガンダーンは最後の言葉を放った。


 「もし、ニーアンが目覚めた時、お前が今のままだったら……その時こそ、お前は真に“すべて”を失うだろう」


 アレクは振り返らなかった。


 ただ、最後に――


 「失うことを恐れていたら、何も得られはしない」


 そう呟き、静かに扉は閉じられた。


 その先に待つのは、世界の裁きか。あるいは、滅びの先に見える救済か。


 アレクサンダー=アーデン=アウリの旅は、まだ終わらない。

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