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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第109話 シュナイダー、断罪される!


『王子の終焉 ―封印の塔へ―』

「シュナイダー=ガンダーラ。おまえに王族たる資格は――もう、ない。」


その言葉が、まるで雷鳴のように、玉座の間に響いた。


父、ガンダーラ国王の目には、もはや情など欠片もなかった。

かつては「自慢の息子」と言われたこの俺に向けられていた眼差しは、今や見る影もなく冷えきっている。


王の足元にひれ伏しながら、俺は拳を震わせた。

何が悪かった? どこで間違えた?

俺は……王族として、当然のことをしてきたはずだ……。


だが、今や俺は――


「王族の名を騙り、民を侮り、貴族を傷つけ、挙句に恥を世界に晒した。この国において、おまえの存在は汚点だ」


父の言葉は容赦なかった。

観覧席で見ていた者たちは、全員が見ていた。

大伝統武術大会の一回戦、紅翼の魔族――リーリアン=フリーソウとの一騎打ち。


俺は完膚なきまでに敗北した。


王子であるこの俺が、一撃で……。


「シュナイダー様……こちらへ」


背後から、騎士団の者たちが進み出てきた。父直属の親衛部隊。

ガンダーラ王の命を、そのまま執行する者たち。


「父上……私は……!」


声が震えた。

許しを乞いたかったわけじゃない。悔しかった。情けなかった。ただ、認めたくなかった。


「私は……王子です……っ。まだ……まだやり直せる……!」


「黙れ!」


バンッ!


父の持つ王杖が、玉座の床を打ち鳴らした。


「おまえは、王家の名を汚した。リーリアン殿への処遇、国際的な問題にもなりかねん行為。もはや一度の敗北ではない。これは、積み重ねだ」


ガンダーラ王の言葉に、何も返せなかった。


なぜ、父はそこまで俺を切り捨てるのか。


……いや、違う。


本当はわかっている。

俺は、リーリアンを冤罪で追放し、政治に私情を持ち込んで恥をかかせた。そしてその“魔族”が今や国家の盟友となりつつあるこの時代に、俺は完全に時代の逆を行った存在――


「……この国にはもう、おまえの居場所はない」


王が手を振ると、重厚な鎧を纏った親衛騎士が前へと進み出た。


「シュナイダー=ガンダーラ。汝を本日をもって、“封印の塔”に幽閉する。死ぬまでそこから出ることは叶わぬ」


「な……!」


目の前が暗くなった。


まさか。

そこは――罪人や大罪魔術師、古の災厄が封じられる、王都西の果ての幽閉地。

かつて出た者は誰一人としていない。

それは、死刑とほぼ同義。


「やめろ……やめてくれっ……! 俺は、王子なんだぞ!! この国の、未来を担う者だ!!」


「違う」


その一言を、王は静かに、そして無慈悲に告げた。


「おまえは……やってはいけない過ちを犯したのだ。連れて行け」


◆ ◆ ◆


手枷をかけられ、護送馬車に詰め込まれた。

王都を出る時、民たちの目が冷たかった。


「第二王子だってよ。武術大会で負けたヤツが」


「魔族の令嬢にやられて……そりゃ国の面汚しだわ」


「情けない王族もいたもんだ」


……何様のつもりだ。


俺がどれだけ剣術を学んできたか、どれだけ努力してきたか――そんなもの、誰も知らないくせに。


だが、言い返すことはできなかった。

俺はもう、ただの「罪人」なのだ。王子ですらない。


◆ ◆ ◆


封印の塔。


石造りの巨大な塔。窓はなく、入口は魔法で閉じられ、外部との通信は一切断たれている。

階層は五十を数え、俺が幽閉されたのはその中層――生きているが、決して外の空気には触れられない。


「ここから出ることは、永遠にない」


騎士の言葉を最後に、分厚い扉が閉まった。


カチリ、と音を立てて鍵がかかる。

そして、静寂。


何もない石の部屋。光源は魔導灯が一つ。

食事も自動魔具が運ぶ。誰とも話さず、誰とも会わず……ただ、時間だけが過ぎる。


(……終わった)


心が、静かに、確実に、崩れていく。


ふと思い出したのは、リーリアンのあの目だった。

強く、揺るぎなく、まっすぐで――俺を“敵”として見据えた、あの目。


(なぜ……なぜ、あんな強さを……)


俺にはなかった。

ただ“王子”という肩書にすがり、剣も魔法も“強い師”に任せ、努力すら他人任せだった。


……それが俺のすべてだった。


そしてそれが、今すべてを失わせた。


◆ ◆ ◆


何日、何週間、何ヶ月が過ぎたのか。

塔の中では、時間すら歪む。


髪が伸び、頬はこけ、声ももう、まともに出ない。


俺は今、誰だ。

王子ではない。戦士でもない。

名も、地位も、家族も……もう、何も残っていない。


リーリアン、おまえは――


いや、違う。


俺の人生は――ここで、終わる。


その静かな絶望の中で、俺は目を閉じた。

今度は、誰も呼ばなかった。誰にも、すがらなかった。


ただ、己の過ちだけが、静かに胸を締めつけていた。

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