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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第72話 エルフの隠れ里リュミエルの泉村のティリエの依頼

星の丘の誓い ―森に棲まう影―

リーレンに導かれ、カールたちは〈グレイリーフの森〉の奥深くへと足を踏み入れていた。やがて、森の空気がわずかに変わる。


澄んだ空気に、どこか懐かしさと、霊的な静けさが混ざっていた。


「……空気が澄んできたわね。これは精霊の加護?」


セリアが呟いたその先、茂みを抜けると、まるで隠し絵のように静かに存在していた。


それが、エルフの隠れ里――〈リュミエルの泉村〉だった。


透明な湖面に浮かぶように家々が建ち、白木の橋が小島のような地形を結んでいる。家の屋根は苔と花で覆われ、枝葉が自然と共に形を成すように作られていた。どこか幻想的で、それでいて調和のとれた美しさ。


「すごい……こんな場所が、森の中に……」


リーリアンも思わず目を丸くする。ルゥも「わぁ……お花がふわふわしてる……!」と跳ねていた。


そのとき、村の奥から数人のエルフが現れた。長い耳に淡い緑の衣、手には弓や杖を持っているが、警戒というよりは静かに見定めているような目つきだ。


「リーレン……無事だったのね!」


その中の一人が駆け寄ってきた。エルフの女性――年若く見えるが、精霊族の見た目はあてにならない。


「ティリエお姉ちゃん!」


リーレンが駆け寄り、女性に抱きつく。ティリエは優しく少女の背を撫で、カールたちに向き直る。


「旅の方々、ありがとうございます。リーレンを助けてくれたと聞きました。私はこの村の巫女・ティリエと申します」


カールは礼儀正しく一礼した。


「俺はカール。仲間のセリアとリーリアン、それからルゥだ。彼女を助けたのは偶然だ。だが……無事で何よりだよ」


「えへへっ、ボクもけっこう活躍したぞ!」


ルゥが自慢げに尻尾を振ると、ティリエは微笑んで膝をつき、ルゥの頭を撫でた。


「あなたにも感謝を、フェンリルの子よ。……さあ、皆さん、村へどうぞ。ささやかながら、おもてなしをさせてください」


◆ ◆ ◆


湖面に浮かぶ小島の一つ、精霊の神殿の広間で、カールたちは果物や温かい薬湯のようなスープでもてなされた。淡い光を放つ水晶が天井から吊られ、静かな音楽が風とともに流れる。


「とても静かで、心が落ち着くわね……」


セリアは湯気の立つカップを手にしながら、微笑んだ。リーリアンもスープをすすりながら小さく頷く。


「ここで暮らすのも悪くない……って思っちゃうな。少しだけ」


「ここがエルフの隠れ里とはな……リーレン、君のおかげだな」


カールの言葉に、リーレンは少し照れたように尾を揺らした。


「ううん、わたし……迷ってただけ。でも、みんなが助けてくれたから……」


そのとき、ティリエが再び広間に現れた。彼女の顔には、先ほどの微笑みとは異なる、わずかな陰りがあった。


「……旅の方々。あなた方に、ひとつお願いがあります」


カールは静かに姿勢を正す。


「何でしょう?」


「実は、数日前から、村の外れに“魔の瘴気”が現れました。精霊の加護が届かない範囲に、得体の知れない魔物が棲みついたようなのです」


「魔物……?」


セリアの表情が硬くなる。


「具体的に、どのような……?」


「見た者は少ないのですが、黒い霧をまとい、森の獣たちを狂暴化させていると聞きます。最近では森の木々までもが枯れ始めました」


「魔獣の浸食……自然を蝕むタイプか。厄介ね」


リーリアンが眉をひそめた。


「普通の冒険者なら足を踏み入れた時点で瘴気に飲まれるでしょう。でも……あなたたちなら、もしかしたら、近づけるのではないかと思ったのです」


「……討伐を、我々に?」


「はい。もちろん、強制はいたしません。ただ、私たちエルフだけでは……守り切れません」


カールは皆を見回した。セリアはすぐに頷く。リーリアンも、言葉はなくともその瞳に戦意を宿していた。


「危険だけど……放っておけないわね」


「ボクも行くぞ! モフモフの名に懸けて!」


カールは静かに息を吐いて、ティリエに向き直る。


「分かりました。俺たちでその魔物を討伐してみせます。村の人々と、この森の静けさを守るために」


ティリエの顔に、安堵の色が広がった。


「ありがとうございます……! どうか、精霊の加護があなた方にありますように」


その夜、カールたちは村に泊まり、精霊の湖のほとりで静かに明日の戦いに備えた。


星々の光が湖面に揺れ、月の欠片がそっと彼らを見守っているようだった。

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