表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/268

第54話 ダラハルの墓地の試練に挑む

『魔王の墓地――魔血の誓い』

 朝露に濡れた森を、静かに歩く一行があった。


 カール=キリトは先頭で、鋭く前を見据えていた。右手の甲に刻まれたウロボロスの契約紋が、墓地に近づくにつれ淡く脈動する。銀の髪が朝の光に揺れ、剣士としての気迫を滲ませる彼の背を、二人の少女が追っていた。


 一人は、白銀の聖女――セリア=ルゼリア=ノルド。白銀のローブの裾を翻しながら、静かに歩いている。その瞳はどこまでも澄んでいて、冷静でありながらも、愛する人の隣に立つ決意に満ちていた。


 そしてもう一人が、魔族の血を引くリーリアン=フリーソウ。ピンク色の髪と小さな角を揺らしながら、唇を軽く噛んでいた。胸の奥がざわついている。ここに来た理由は明確だ。ダラハルの魔王の墓地――そこに、自分の“魔血”の源がある。


 そして、決着をつけなければならない。


 「……見えてきたね」


 セリアの声に、木々の間から、巨大な石造りの門が姿を現した。それはまるで、世界そのものに拒絶されているかのように、空間の歪みを纏っていた。


 「これが……ダラハルの墓地か」


 カールが呟いた。石の門には古代魔族の文字が刻まれている。“ここに眠るは、魔王とその継承者なり”と。


 「行くよ、リーリアン」


 彼が一歩踏み出すと、門が音もなく開いた。その奥は暗く、深い。まるで、すべてを飲み込もうとする奈落。


 「……うん」


 リーリアンは頷いた。カールの隣に並び、セリアがその背を守るようについてくる。


 足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 冷たい。骨の奥まで染みるような、冷たさ。


 ルゥがカールの肩に飛び乗った。


 「この中、ヤバいよカール。なんか……ううん、誰かが見てる気がする」


 「気を抜くな。ここからは、試練そのものだ」


 奥へと進むにつれ、壁に灯る青白い火の灯が彼らを照らしていた。そして、広間に出たとき――それは突然起きた。


 空気が震え、床に黒い紋様が広がった。闇の魔力。リーリアンの足元が輝き、彼女の身体がふわりと浮かび上がった。


 「リーリアン!」


 カールが手を伸ばすが、不可視の結界に阻まれる。


 「これは……私だけの試練よ。止めないで」


 彼女は振り向き、笑った。その笑顔は震えていたが、確かに強かった。


 「魔族の血を持つ者よ――その力を受け入れよ」


 空間に響く、低い声。まるで、過去から届いた魂の声。


 闇の中から現れたのは、一人の女性だった。黒いドレスに、血のような紅の髪。リーリアンに似ていたが、表情は冷たい。


 「私は、第一魔王妃アルディナ。おまえの祖先にあたる者だ」


 「あなたが……」


 「おまえに問う。魔族の誇りとは何か」


 その声に、リーリアンは拳を握る。


 「誇り……それは、力に酔うことじゃない。欲望に従うことでもない。誰かを守るために、その力を使うこと。それが、あたしの誇り!」


 その瞬間、黒い霧が渦巻き、彼女の胸に突き刺さるような痛みが走った。


 「ならば、その血を受け入れろ。さもなくば、おまえはこの地に消える」


 リーリアンは叫びを上げ、膝をついた。体内で何かが暴れている。狂気、怒り、憎悪――魔族の負の感情が、血を通して彼女を試していた。


 「くそっ、あたしは……負けない!」


 カールとセリアの姿が、心に浮かぶ。優しく手を伸ばしてくれた彼。静かに寄り添ってくれた彼女。


 「この力は……あたしのもの! 誰のものでもない!」


 彼女が叫ぶと、胸から紅い光があふれ出した。それは魔血の覚醒――しかし、暴走ではなかった。彼女がその力を“受け入れた”証。


 黒い霧が吹き飛び、アルディナの姿もまた、霧のように消えていった。


 「……よくやった、娘よ」


 その言葉を最後に、広間の魔力は消え、結界も解除された。


 カールとセリアが駆け寄り、リーリアンを抱きしめる。


 「……あたし、見たの。あたしの中の、怒りや悲しみ。でも、それでもいいって思えたの。カール、ありがとう……隣にいてくれて」


 「リーリアン……よく、戻ってきた」


 セリアもそっと手を重ねる。


 「もう、ひとりじゃないんだから。あたしも、あなたの力になりたい」


 リーリアンの瞳から涙がこぼれた。だが、それは弱さの証ではなかった。


 それは、強くなった証。


 こうして――カールたちは、それぞれの力を持って、新たな絆で結ばれた。


 魔王の墓地は静かに、その扉を閉じた。


 そして、世界の命運を左右する戦いへと、物語はさらに動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ