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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第50話 ガンダーン魔王国の魔王、怒りの咆哮

 魔王の玉座にて――咆哮(ほうこう)

 その日、魔王国ガンダーンの王城は、不穏な空気に包まれていた。


 大広間の空気は重く、息を呑むような沈黙が続いている。紫黒色の石で組まれた玉座の間。その最奥に、巨大な玉座に腰を下ろす影があった。


 ――魔王、ガンダーン。


 その身は岩のように巨大で、肌は魔石を埋め込んだかのように硬質な漆黒。二本の巨大な角が、額から後ろに反るように生え、深紅の瞳があらゆる虚偽を射抜く。


 王として、父として、そしてかつて「七罪の盟主」と呼ばれた一柱として――ガンダーンの沈黙は、すでに何人もの将軍の心を砕いていた。


 「……それが真実か?」


 低く、地の底を這うような声が響く。声を発したのは玉座の主。だが、その声には明確な怒気が宿っていた。


 「はっ……! 間違いなく、王直属の影魔兵が確認しました。『ウロボロス』は人間と契約を結び、現在、剣聖カール=キリトと行動を共にしているとのこと……そして……」


 報告しているのは側近の一人、老魔族の男だった。背は低いが、何千年も魔王に仕えてきた者の気迫と知略を感じさせる。


 「死のグリムノートもまた、倒されたと。確認済みでございます」


 広間に、空気が止まった。


 次の瞬間。


 ガンダーンの瞳が、真紅に燃え上がる。彼の放つ魔力は、部屋全体を圧迫し、玉座の間の床に刻まれた古代魔法陣を軋ませた。


 「……グリムノートが、敗北しただと?」


 ガンダーンの拳が玉座のひじ掛けを握り締め、石がひび割れ、黒い煙が立ちのぼる。


 「“死の王”と恐れられた我が副団長が……。それも、人間風情にか?」


 怒声ではない。だが、その静かな言葉には、嵐のような魔力と殺意が混じっていた。


 「それだけでは……ございません、陛下……」


 側近は言い淀む。だが、その様子を見て、ガンダーンは口を閉じ、次を促すように赤い目を細めた。


 「……続けよ」


 「……その戦いには……フリーソウ侯爵令嬢、リーリアン殿も関与していたと」


 その名を聞いた瞬間、ガンダーンの表情が動いた。


 わずかに眉が動き、握りしめた拳がゆっくりと力を緩める。


 「……リーリアンが?」


 「は……はい。情報によれば、カール=キリトという人間と行動を共にし、死の王との戦いにも参加していたと。さらには――」


 「さらには?」


 「ウロボロスの解放にも、彼女が……関わっていたとのことです」


 その言葉に、ガンダーンの背後にある魔力の流れが一変した。まるで大渦が逆流するように、空気がざわめき、魔の圧が増していく。


 「……あの子が……」


 低く、吐き捨てるように。


 「リーリアンが、我が元仲間の封印を解き、共に戦い……そして、我が副団長を討ったと?」


 言葉を発するたびに、玉座の間の壁がひび割れ、燭台が倒れ、魔法陣が異音を立てて軋んだ。


 だが、怒りの中心にあったのは、彼女に対する嫌悪ではなかった。


 それは、悔しさだった。


 かつて共に戦った「七罪」の同胞たち――その中でも、知恵と静寂を司ったウロボロス。そして、死の王グリムノート。いずれも、ガンダーンが最も信を置いた仲間だった。


 その二人が、今や人間の側に――。


 「……リーリアンは、なぜあの場にいた?」


 「それが……王子、第二王子シュナイダー殿の命令で、国外追放処分となっており……」


 「追放?」


 その一言に、広間が揺れた。


 ガンダーンは玉座から立ち上がる。大地を踏みしめるような足音が響く。


 「リーリアンが、なぜ追放された?」


 「それが……王子は、貴族令嬢フェルーナ様への“いじめ”の容疑を理由に……」


 「――愚かッ!!」


 轟く怒声が玉座の間に響き渡った。


 それは、魔王が発したとは思えぬほど、生々しい怒りの叫びだった。


 「誰が、我が臣民を――我が孫娘のような子を、そんな理由で追放して良いと言った!!」


 ガンダーンの足元から、黒い魔炎が立ち昇る。


 「フェルーナなどという名、聞いたこともない貴族の小娘の訴え一つで、リーリアンを追放だと? 我が血筋を、そのように扱うとは――」


 彼の声が震えるのは、怒りだけではない。


 悔しさ。無念。そして、リーリアンという少女を守れなかったことへの、王としての自責。


 「シュナイダーめ……貴様……!」


 ガンダーンは拳を握り、王の冠をゆっくりと取り外した。


 「愚かな真似を……我が名を背負う者として、恥を知れ」


 彼は深く息を吸い込み、そして冷徹な声で命じた。


 「……近衛隊長」


 「はっ!」


 すぐに、鎧を身に着けた魔族の男が膝をつく。


 「第二王子、シュナイダーを――ただちに王の間へ呼べ」


 「かしこまりました」


 部下が即座に立ち上がり、魔力の紋章を空に描く。その姿を見ながら、ガンダーンの目は、どこか遠くを見ていた。


 「リーリアンよ……すまぬな……」


 そのつぶやきは、誰の耳にも届かないほど小さかった。


 だが、王としての誇りと怒りを、その身に宿した咆哮は、間もなく玉座の間に再び響くことになるだろう。










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