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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第49話 水の妖精ハィミーから見た、カール一行の様子

 水面が星を映し、夜風がそっと泉をなでるころ。私は、その静けさの中に身を浮かべていた。


 私の名前はハィミー。水の妖精。この村の泉に宿る者として、ずっと森とともに生きてきた。でも今夜ばかりは、ただの水の精ではいられなかった。


 彼らが帰ってきたのだ――カール=キリトと、その仲間たちが。


 死の王との戦い。命を懸けた冒険。その旅を終えて、彼らは今、森の小道を歩いている。


 私は水面からそっと顔を出し、夜の空気に耳をすませた。小さな足音。草を踏む音。そして、淡く光る契約紋の気配。最初に現れたのは、銀髪の剣聖――カールだった。


 静かな目。けれどその奥には、炎のような意志が宿っていた。右手の甲に輝くウロボロスの紋章。それは彼が契約者である証。彼の歩みに、風すら敬意を払うように感じた。


 その隣を歩いていたのは、白銀の聖女となった少女――セリア=ルゼリア=ノルド。以前は「氷の魔女」と呼ばれていた彼女は、今や聖女として新たな力を得ていた。銀髪が月光に照らされて、まるで夜の光そのものみたいだった。けれど、カールの隣では少しだけ頬を染めていて、私は思わず微笑んでしまった。


 彼女が使う守護術――プロテクティア。その魔法陣は、美しい六芒星に花の模様を添えたもので、使われるたびに空気が温かくなる。私はその魔法がとても好きだった。


 そして、そのすぐ後ろには、ピンクの髪を揺らして歩く魔族の少女――リーリアン=フリーソウ。彼女の頭には、立派な角が生えていて、その姿は凛としている。フリーソウ侯爵家の令嬢であり、強力な魔法使いでもあるリーリアン。彼女はいつも堂々としていて、でも時々、ふっと無邪気な笑顔を見せる。そのギャップが、私にはとても魅力的だった。


 最後に姿を見せたのが、ルゥ――フェンリルの子どもで、人の言葉を話す小さなオスの獣。ぴょんぴょんと跳ねながら、しっぽをふりふり走ってくるその姿に、妖精たちがいっせいに「ルゥだ!」と歓声を上げて駆け寄った。


「カール! 妖精たち、今日すごく楽しそうだよ!」


 そう無邪気に笑うルゥに、私は胸がふわっと温かくなった。彼はまるで風。自由で、どこまでも優しい風。


 村は祝祭の準備に包まれていた。光の花が咲き、空には舞うように小さな妖精たちが飛び交う。大樹の根元には舞台が作られ、音楽隊が優しく弦を奏で始めると、森全体が揺れるようだった。


 私は泉のふちから、そっとその光景を見守っていた。


 やがて、舞台の前でカールが手を差し出した。


「セリア、踊らないか?」


 その言葉に、セリアが少しだけ驚いた顔をして、けれどすぐにふわりと微笑む。


「……うん。こうしてまた、笑っていられるのが嬉しい」


 ふたりが手をつなぎ、輪の中に入っていく。セリアの銀髪が風にゆれ、カールの剣の柄が月の光を反射していた。


 私は思わず、水面に指を触れた。そのとき生まれた小さな波紋が、ふたりのステップに合わせて静かに揺れたような気がした。


「やれやれ、甘すぎて目が腐りそう……」と、リーリアンが少しだけむくれたように言った。


「あーあ、わたしにも踊ってくれる王子様が現れないかしら」


「じゃあ、ボクが踊るよ!」


 ルゥがしっぽをぶんぶん振って、勢いよく飛び出す。その言葉に、リーリアンが目を見開き、そして吹き出した。


「ふふ、ありがと。じゃあ、エスコートしてちょうだい?」


「まかせて!」


 ふたりが輪の中へと飛び込んでいくと、妖精たちはきゃあきゃあと笑いながら祝福の言葉を叫んだ。光の粒が舞い、空には流星のような光が走った。


 ――この夜は、特別な夜になる。


 私はそう確信していた。


 やがて、女王セレーナスの導きで、四人は大樹の根元にある聖域へと案内された。そこは静けさと光が共存する、神聖な場所だった。


 私は水の流れを使って、そっとその場へと向かう。仲間たちの妖精も、風や火や土の精も、皆がその場に集まっていた。


 祝福の儀――それは、私たち精霊が彼らに力を託す、大切な儀式。


 私はそっと祈った。


「この者たちに、我らの加護を――」


 カールには、守護の祈りを。彼の剣は、ただ強いだけじゃない。仲間を守るために振るわれる剣。ウロボロスの紋が、それを語っていた。


 セリアには、精霊の加護を。プロテクティアは彼女の心を映す魔法。氷のように冷たくもあり、同時にあたたかい。誰かを守ろうとする愛が、その光に込められていた。


 リーリアンには、火の耐性を。熱く燃えるような情熱の中に、確かな芯がある。彼女は魔族でありながら、人と妖精の世界に橋をかける存在。だからこそ、私たちはその身を護る術を与えた。


 ルゥには、風の導き。未来へ向かう風が、彼のしっぽに宿っていた。軽やかで、けれどしっかりと仲間の隣を歩く風。その風が、これからも彼らを支えていくように。


 すべての加護が与えられたとき、女王セレーナスが静かに言った。


「これは始まりにすぎません。けれど今宵は、どうか心ゆくまで踊り、笑い、喜びを分かち合ってください」


 その声に、私は胸を打たれた。そう、この夜は祝福の夜。未来へつながる、希望の夜。


 私は泉へ戻りながら、そっと水に歌を流した。波のようにやさしい旋律。それはきっと、彼らの心にも届くだろう。


 月明かりが降り注ぎ、森は祝祭の光に包まれていた。妖精たちが舞い、音楽が鳴り響き、笑い声が星空へと昇っていく。


 ――祝祭は、まだ終わらない。


 そして、彼らの旅もまた、ここから始まっていく。

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