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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第48話 妖精の村のお祭り

 死の王との戦いを終え、妖精の村へと戻ったカールたちは、休む間もなく妖精女王セレーナスのもとへ向かった。


 神殿の奥、透明な水が流れる清らかな泉のほとりに、セレーナスは佇んでいた。月光を浴びてなお輝くその銀の髪が、静かに風に揺れている。カールの報告を受けると、セレーナスはしばし目を伏せ、沈黙のまま泉の水面を見つめた。


「……そうですか、死の王は……」


 その声は、哀惜と決意が入り混じったように響いた。やがて彼女は深く息を吐き、そっと顔を上げる。


「あなた方の勇気に、妖精の民すべてが感謝いたします。どうか、今宵は心からの祝福を受けてください」


 その言葉とともに、泉の周囲がふわりと光に包まれた。水の中から無数の光の粒が立ち上り、空へと舞い上がっていく。光の粒はやがて小さな妖精の姿をとり、宙を踊りながら村へと広がっていった。


 その知らせを受け、村は瞬く間に祝祭の装いへと変わった。大樹の枝から吊り下げられた花灯りが揺れ、夜空には妖精たちの舞う光の尾が流星のように輝く。村中に広がる香ばしい果実酒の香りと、甘い果実の匂いが混ざり合い、妖精たちの笑い声が夜の静寂を明るく染めていく。


「お祭り、だね!」


 ルゥが跳ね回りながら、尾をふりふり嬉しそうに叫んだ。数人の妖精がその背に花飾りをかけ、「英雄の友よ!」と讃えている。ルゥはくすぐったそうに身をすくめながらも、得意げに胸を張った。


 村の中央、大樹の根元には特別な舞台が設けられていた。白い蔓草で飾られたその舞台の上では、妖精の音楽隊が笛と竪琴を奏で始める。旋律は軽やかに、優しく、森の奥深くまで響きわたった。


 妖精たちは輪を作り、手を取り合って踊り始める。子どものような姿の妖精はくるくると回り、大人の姿をした長老たちはゆったりと歩きながら、古の祝福の言葉を紡いでいく。


「セリア、踊らないか?」


 カールが差し出した手に、セリアは頬を染めながらもそっと手を重ねた。


「……うん。こうしてまた、笑っていられるのが嬉しい」


 二人は舞台の輪の中へと歩み入る。セリアの銀髪が月明かりを受けてきらめき、カールの手の中で光の糸のように揺れた。その姿を遠目に見て、リーリアンが苦笑する。


「やれやれ、甘々すぎて目が腐りそうね……あーあ、わたしも踊ってくれるような王子様、現れないかしら」


「じゃあ、ボクが踊るよ!」


 ルゥがぱっと尾を振りながら笑いかけると、リーリアンは一瞬きょとんとしたが、次の瞬間には吹き出した。


「……ふふ、ありがと。じゃあ、エスコートしてちょうだい?」


 「まかせて!」と小さく叫んで、ルゥがぴょんと跳びあがる。二人は軽快なステップで舞台の中へと踊り込んでいった。


 祝祭の音が高まる中、大樹の根元に設けられたもうひとつの空間――聖域のような静けさに包まれた場所で、妖精たちの長老たちが集まっていた。セレーナスに導かれ、カールたち四人がそこへと招かれる。


「今宵、我ら妖精族は、汝ら四人に祝福を授けん」


 長老の一人が静かに言うと、光の粒が彼らの手元に集まり、姿を変えた。花、宝石、羽、そして小さな魔法陣。祝福の象徴たちが、ひとりずつの前に差し出された。


「カール=キリトよ。剣を携え、仲間を導いたその勇気に、守護の祈りを」


 青い羽根が彼の胸元に触れた瞬間、温かな光が全身を包んだ。心臓の奥にまで染み渡るような力が満ちていく。仲間を守る意志が、そのまま魔力となって流れ込むような感覚だった。


「セリア=ルゼリアよ。“氷の魔女”と呼ばれし才を、民のために使うその知恵に、精霊の加護を」


 小さな氷の結晶がセリアの手に舞い降りた。それは瞬時に溶けたが、冷たい力と同時に、確かな「防御の加護」の魔法が彼女の内に根づいた。


「リーリアン=フリーソウよ。魔族と人との狭間に立ち、なお笑みを忘れぬ心に、火の耐性を授けん」


 赤い宝石が彼女の額に触れ、ぱっと熱を持った光が弾ける。強い魔力の奔流が、身体を芯から温めた。


「ルゥよ。フェンリルにして、言葉を持つ者。その純粋なる心に、風の導きを」


 緑の花がルゥの首にかけられた。その瞬間、小さな身体がふわりと浮き、風が彼を軽やかに支えた。


 祝福が終わると、セレーナスはそっと微笑みながら言った。


「これは始まりにすぎません。あなた方は、まだ旅の途中にあります。しかし、今はどうか――心ゆくまで踊り、笑い、今宵の祝福を味わってください」


 その言葉に背を押されるように、カールたちは再び村の中心へと戻った。祭りはますます賑わいを見せ、妖精たちの笑い声は空高く響いていく。


 月が森を照らし続ける限り、その夜の祝福は、決して忘れられることのない光景として、彼らの心に刻まれたのだった。




 







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